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トレース (製図)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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トレース、トレスtrace)とはにおける模写あるいは複写の一種。元になる絵をその内容を変えずに別の紙に写す清書をすること、またはそれによって作られた絵そのものを指す。

特に元絵の上に別の紙を置いて透かし、それをなぞって写し取ることを指す。

製図におけるトレース

建築機械工学地図製作などの製図の業務において、すでにある図面(元図)の記載内容を変えずに他に書き写す行為が「トレース」と呼ばれる。ただし対象物の寸法や形状を何もない状態から記録し、元図を作る行為は測量設計であり、それとは明確に区別される。

設計者などから元図を受け取り、それをJIS規格などに則った形の図面に清書するというものが主な流れである。まれに、図ではなく寸法のみが提示されることもある。図面の大きさを変える場合、複数の図面を結合・分離する場合もトレースによって行われる。元図がかなり整っていれば透かして写し取る場合が多く、そうでなければ新たに描き起こすことになる。

トレースの用具

近年は主にCADが用いられるが、印刷では再現しづらい細かい図などのために、依然手書きトレースの需要もある。

トレス台
蛍光灯無機ELによって、盤面が光る構造になっている製図台。多くは卓上に置いて用いる。これで元絵を透かして写し取る。
トレーシングペーパー
詳細は当該項目を参照。半透明の紙。トレースの時点でのみ利用し、複写した青図が図面となる。

他は製図用具とほぼ同様。

つけペン
丸ペンなどが用いられる。細く均一な線を引くときに用いる。
カラス口
太い線を引くときに用いる。太さの変わらない線を引くことができる。
製図ペン
商品名「ロットリング」など。カラス口と同様、決まった太さの線が引ける。

写し絵

子どもの遊びの一つ。漫画などの絵の上に薄い紙を置いて絵をなぞって写し取る行為。自分でそのキャラクターなどを描けた気分になるという楽しみがある。トレス台の代わりに、昼間の窓ガラスなどが用いられることもある。

漫画などのキャラクターがプリントされた紙と、トレーシングペーパーがセットになった「写し絵セット」も市販されている。

塗り絵線画を元に写すこともある。

漫画におけるトレース

漫画イラストレーションの製作においてもトレースは多用される。

  • ペン入れを下書きと同じ紙ではなく別の紙へのトレースで行う。下書きを消しゴムで消す手間が省け、消し残しが発生したり紙が傷む心配がなくなる。
  • 複数の物を一つの絵(コマ)の中に入れるときに、別々に下書きを行った後トレースにて合成し清書する。
  • 逆向きのほうが描きやすい事物は、逆向きで下書きをした後ひっくり返してトレースする。
  • 漫画の背景などは写真をコピーしたものをトレースする。リアルな人物画を描くときなどにも用いられる。
  • 1970年代ごろまでの漫画にはトレース版というものがあり、何らかの原因で原画や原版が紛失した作品を作者以外の第三者が既存の過去印刷物からトレースによって新たに版を起こし印刷することがあった。

トレース問題

他者が作成した写真やイラストなどの著作物をトレースし、それを自分の作品として発表・頒布する行為がしばしば問題となっている。これらの行為は著作権の侵害であり、法律で罰せられる可能性がある。

事例としては、以下のものがある。

  • 池上遼一の漫画『信長』で新府城の復元図が盗用であると、復元図の作者である工業デザイナーの藤井尚夫に抗議された[1]。『信長』は最終巻が出版されないまま小学館からのコミックスは絶版となったが、2003年にメディアファクトリーから引用箇所を描き替えた上で復刊されている[1]
  • かわぐちかいじの漫画『沈黙の艦隊』での潜水艦・空母等の作画が写真集からの無断トレースであるとして、写真家の柴田三雄から訴えられた[1]。かわぐち側の全面謝罪と賠償金支払で決着した[1]
  • 末次由紀の漫画『エデンの花』に、井上雄彦の漫画『SLAM DUNK』や『リアル』からの作画や構図等のトレースがあったことが2005年に判明し、単行本は絶版となった。
  • 漫画雑誌『マガジンドラゴン』に掲載された『ドラゴンカップ』受賞作品の『メガバカ』内に、『DEATH NOTE』などの他者の作品からトレースされたと思われる絵が多数を占めていた事件がある。講談社が公式に謝罪し、『ドラゴンカップ』の選考から除外された。

また、漫画家のCLAMPイラストレーターみつみ美里ウェブサイト上で自身の作品のトレースをしないように呼びかけているなど、この種の問題の存在は商業作品同人誌を問わず広く認知されている。

注釈

  1. ^ a b c d 坂茂樹「封印漫画大全」(三才ブックス)

関連項目

外部リンク