トヨタ・86
トヨタ・86 ZN6型 | |
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GT(フロント) | |
![]() GT(リア) | |
![]() G(内装) | |
概要 | |
別名 |
トヨタ・GT86(ヨーロッパ) サイオン・FR-S(アメリカ、カナダ) |
販売期間 | 2012年4月 - |
設計統括 | 多田哲哉 |
ボディ | |
乗車定員 | 4人 |
ボディタイプ | 2ドアクーペ |
駆動方式 | FR |
パワートレイン | |
エンジン |
FA20型:水平対向4気筒 DOHC ポート噴射+筒内直噴(D-4S) |
最高出力 | 147kW (200PS)/7000rpm |
最大トルク | 205N·m (20.9kgf·m)/6400 - 6600rpm |
変速機 | 6速MT/6速AT |
前 |
前:ストラット 後:ダブルウィッシュボーン |
後 |
前:ストラット 後:ダブルウィッシュボーン |
車両寸法 | |
ホイールベース | 2,570mm |
全長 | 4,240mm |
全幅 | 1,775mm |
全高 | 1,300mm |
車両重量 | 1,220kg |
その他 | |
姉妹車 | スバル・BRZ |
製造事業者 | 富士重工業 |
トヨタ・86(ハチロク)は、トヨタ自動車が富士重工業(スバル)と共同開発し、富士重工業が生産、トヨタ自動車が販売するFRレイアウトのスポーツカーである[1]。トヨタ・86の兄弟車として富士重工業からは一部仕様が異なるスバル・BRZが販売される。
なお、本項目では2009年の第41回東京モーターショーに出展した本車のコンセプトカーであるFT-86/FT-86 IIについても記述する。
概要
トヨタ・86は、走る楽しさを追及した「直感ハンドリングFR」のコンセプトを実現するために、小型・軽量・低重心・低慣性を特長として企画・開発された小型スポーツカーである[2]。チューニングのし易さから息の長い人気を誇るAE86(ハチロク)の「自分だけの1台を楽しみながら育てる」精神を継承し、「お客様とともに進化する」スポーツカーを目指して、「86(ハチロク)」と命名された[2]。
2012年2月2日に発表され[3]、同年4月6日から全国で発売された。販売についてはトヨタ全販売チャネル(トヨタ店・トヨペット店・カローラ店・ネッツ店)での取り扱いとなるが、全国の各ディーラー(ただしネッツトヨタ東四国は除く[4])から選ばれた1店舗のみが「AREA 86」として展示車・試乗車を設置し、専門スタッフを常駐させる。
若年層を狙いできるだけ低価格に設定されているが[5]、メインターゲットは、かつてAE86(ハチロク)に乗っていた、あるいは憧れていた40歳代から50歳代の男性。さらには将来の若年客層となるその子供にも訴求する[6]。販売価格は、ベースグレードの「RC」で199万円、標準グレードの「G」で241万円、上級グレードの「GT」では279万円、最上級グレードの「GT “Limited”」は305万円となる[7]。
北米での名称はサイオン・FR-S。2010年6月18日に北米での市販車名はFR-Sが有力だと報道されており[8]、2011年4月20日のニューヨーク国際オートショーにおいて『FR-Sコンセプト』の公開に伴い、サイオンブランドから販売されることが発表された[9][10]。また、ヨーロッパ市場ではGT 86、韓国[11]、マレーシア[12]、インドネシア[13]、オーストラリアでは日本と同じ86の名称で発売される。
2012年3月16日から富士重工業(スバル)群馬製作所本工場で生産が始まった。86、FR-S、GT 86、スバル・BRZのいずれも同工場で一貫して生産される。
開発
開発経緯
86はスバルとの共同開発車であり、開発技術は両社から持ち寄られており開発費も両社で折半されている[14]。車両コンセプトやパッケージングの企画策定と全体デザインはトヨタが、実際の設計と確認作業はスバルが主導し、生産はスバルが一貫して担当した[14]。本プロジェクトの企画立案者でトヨタ側の開発責任者となる86の開発主査(チーフ・エンジニア、CE)は多田哲哉である[15]。
トヨタ社内ではスポーツカーの企画は毎年提出されていたが、投資効率が悪いという理由で毎回却下されていた[15]。しかし社内で「若者の車離れ」に対する危機感が深刻になると、2007年1月にトヨタ全役員を集めた対策会議が開かれて安価なスポーツカーを開発することが決定した[15]。そして同年3月に、2代目ウィッシュの開発主査であった多田哲哉が若手技術者2人とともに新しいスポーツカーの担当に任命されたことで、本プロジェクトの企画立案が開始された[15]。多田はこの時期に、ロードスターやRX-7の開発主査を務めたマツダの貴島孝雄から量販スポーツカーを開発することに関する助言を受けており、後に貴島は本車の発表会に来賓として招かれている[16]。
そしてこの頃にトヨタからスバルへ、水平対向エンジンを使った低重心のスポーツカーの共同開発の提案が内々にあり、2007年中に外観はレガシィのまま、水平対向4気筒エンジンを搭載した低重心FR試作車が製作され、商品化した場合の採算性の検討も始まった[17]。翌2008年初頭にはスバル側の開発責任者に増田年男が任命され、同年4月にトヨタとスバルは共同記者会見を開いて共同開発を正式に発表し、本格的に開発が始まった[17]。
開発を開始するに当たっては、廉価・軽量・低重心の車両を実現し、多くの人に直感的な走る楽しさを提供することができるよう、昨今のスポーツカーの開発においては走行性能の追求の点から常套手段となっている、四輪駆動・ハイパワーターボ・ハイグリップタイヤの3点セットを否定するところから着手した[18]。
嗜好性の高いスポーツカーを開発するため、開発するにあたっては、“Built by passion, not by committee!”(合意してつくるのではない、情熱でつくるんだ!)がスローガンとして掲げられ、通常のトヨタの開発手法とは異なる意思決定の仕組みが採用された[19]。例えば従前の車両スタイリングでは、役員、営業、工場などの各部門の承認が必要な社内評価制度があるが、86の開発では多田が社長の豊田章男に要望を出し、社内のスポーツカーユーザー200名の意見を取り入れながら少人数で決定した[20]。この結果、超低重心の車体を強調したサイドビューや、獲物を狙う肉食系の動物をモチーフとし、知的で明晰な印象を与える「キーンルック」[21]と呼ばれるフロントマスクのデザインが採用されている。また、章男自身もテストドライバー的な役割として開発中の本車に何度も試乗しており、これも異例なことであった。
コンセプトモデル FT-86
トヨタ・FT-86 | |
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フロント | |
リア | |
室内 | |
概要 | |
デザイン | トヨタ ヨーロッパ デザイン デベロップメント |
ボディ | |
乗車定員 | 4人 |
ボディタイプ | 2ドアクーペ |
駆動方式 | FR |
パワートレイン | |
エンジン | 水平対向4気筒 2L |
最高出力 | 147kW (200ps) |
最大トルク | 205N・m (20.9kgf・m) |
変速機 | 6速MT |
前 |
前:ストラット 後:ダブルウィッシュボーン |
後 |
前:ストラット 後:ダブルウィッシュボーン |
車両寸法 | |
ホイールベース | 2,570mm |
全長 | 4,160mm |
全幅 | 1,760mm |
全高 | 1,260mm |
FT-86は、2009年の第41回東京モーターショーで発表された、クルマ本来の運転する楽しさ、所有する歓びを提案する小型FRスポーツカーのコンセプトモデルであり[22]、開発中の86の将来の姿を示唆するコンセプトカーでもあった。
- デザイン
独立したトランクを有する3ボックス・ノッチバックスタイルでサッシュレスドアを採用しており、ED2(Toyota Europe Design Development)がデザインを担当。そのエクステリアデザインの特徴は、2007年の第40回東京モーターショーに出展されたトヨタのコンセプトカーであるFT-HSを彷彿とさせるものが与えられ、従来のライトウェイトスポーツカーと大きく異なる、張り出しや重量感のあるものとなっている。
前面はヘッドランプが細く鋭く切れ上がり、その下部にある縦筋の窪みはエンジンルームへのエアインテークになっている[23]。フロントバンパーと一体化させたフロントグリルは、大きく六角形に開口させて奥まったところに設置し、Aピラーと共にブラックアウトさせている。Aピラーについては、重視される衝突安全性能を達成するため、市販車の多数に倣って太くなっているが、それと引き替えに大きくなってしまう死角領域の対策として、分割してガラスをはめ込むことで外観を損ねることなく死角領域の低減を図っている。
背面は、スポイラー状に形成されたトランクリッドとカーボン製のディフューザーが空気の流れを意識した立体感ある形状[24]に仕立てられており、ディフューザーに埋め込まれたマフラーエンドが左右1本ずつのぞかせている。
パッケージングの特徴は、全長に対して長くとられたホイールベースである。前後のオーバーハングは極限にまで切り詰められているため、ほかの2L級クーペより短い全長ながら2+2シート・4人定員の居住空間を確保している。
FT-86およびAE86、日本メーカーのクーペ(2L級)との寸法比較 | |||||
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車名 | 全長 (mm) |
全幅 (mm) |
全高 (mm) |
ホイールベース (mm) |
オーバーハング (mm) |
トヨタ・FT-86 | 4,160 | 1,760 | 1,260 | 2,570 | 1,590 |
トヨタ・スプリンタートレノ (AE86型) | 4,215 | 1,625 | 1,335 | 2,400 | 1,815 |
トヨタ・カローラレビン (AE86型) | 4,180 | 1,625 | 1,335 | 2,400 | 1,780 |
日産・シルビア (S15型・スペックR) | 4,445 | 1,695 | 1,280 | 2,525 | 1,920 |
ホンダ・インテグラ (DC5型・タイプR) | 4,385 | 1,725 | 1,385 | 2,570 | 1,815 |
[例外[25]] マツダ・RX-8 (SE3P型・前期タイプS) | 4,435 | 1,770 | 1,340 | 2,700 | 1,735 |
また、2011年に公開された「FT-86IIコンセプト」では、細部のデザインが変更されている。
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/b/bf/ToyotaFT-86II.jpg/200px-ToyotaFT-86II.jpg)
- Gスポーツ
2010年に発表されたコンバージョン車ブランド「Gスポーツ(通称;G's)」のモデルとして東京オートサロンにて公開されたのが「FT-86 Gスポーツコンセプト」である。 専用のエアロパーツやレカロ製バケットシート、専用開発のターボエンジンなどを搭載している。
インテリア
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/9/9c/Toyota_86_GT_-_Rear-view_Mirror.jpg/220px-Toyota_86_GT_-_Rear-view_Mirror.jpg)
インテリアでは、後方視界の視認性を考慮したフレームレス・ミラーを採用している。また、6AT車のシフトノブはマニュアル車のものに近いものにデザインされ、GTとGT Limitedにはパドルシフトが標準装備されている。
メカニズム
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/6/6d/Toyota_86_-_Engine.jpg/220px-Toyota_86_-_Engine.jpg)
エンジンは低重心と重量配分を追求すべく、富士重工業が開発したFB20型をベースに、トヨタの直噴技術である「D-4S」を組み合わせた新開発の水平対向4気筒・NAの2.0Lエンジン(FA20型)である[26]。なお、車の性格上、高回転出力型を目指したため、FB20型と比べるとストロークが短縮された。その結果、このエンジンのボア×ストロークは3S-GEや2JZ-GEといったエンジンの伝統を踏襲した86×86mmとなっている[27]。
駆動方式はこれを縦置きに搭載して後輪を駆動するFRとし、3ペダル式の6速MTもしくは6速ATが組み合わされる。スバルのレガシィやインプレッサが採用する駆動方式の主流である4WDのフロント駆動部分を取り除けばFRとすることが可能であるが、86ではFR専用にトランスミッションを新開発し、エンジン搭載位置も見直した上で、エンジン重心を前車軸よりも後方に搭載するフロントミッドシップ方式を採用することで、運動性能に大きく影響する前後の重量配分に気を配っている[28][29]。 ブレーキシステムは、トヨタの系列会社であるアイシンのグループ企業、アドヴィックスが開発した前4ポッド・後2ポッドのものが装着されている。
これらにより前後重量配分は二名乗車時で53:47、重心高は460mmと発表されている。チーフエンジニアの多田は、あえて50:50の前後重量配分を避けた理由について、200馬力で1200kg台の86にとっての「ステアリングの切り始めの最適な応答性」を狙ったものであることを表明しており、ターボが設定された300馬力程度のハイパワー車なら、よりリアの重量配分を増加させるべきであるとしている[30]。(ただし、メディアに発表されている前後重量配分と車検証の軸重(例:G(AT)前700kg:後530kg)とはかなり開きがあり、実際には57:43または56:44程度(通常のFRセダンと同等)である。二名乗車という条件でもこの比率はほぼ変化しない。ちなみにかつてのAE86(2ドア)の前後重量配分は55:45(車検証軸重、前520kg:後420kg)程度である)
また重心高については、レクサス・LFA:445mm、フェラーリ・360:447mm、ポルシェ・ケイマン:482mm、日産・GT-R:495mmを例にあげ、「スーパースポーツに匹敵する低重心」と謳っている[31]。ちなみに2リッターNAスポーツとして競合車種となるマツダ・ロードスター(NC型)の重心高は445mm である。
タイヤは、16インチが4代目スバル・インプレッサと同じヨコハマ製「デシベル」(205/55R16)で、17インチは3代目プリウスのツーリングセレクションと同じミシュラン製「プライマシーHP」(215/45R17)である。[32]このようにスポーツ系車種としては珍しく、ハイグリップ志向ではないコンフォート志向のタイヤを採用している。 通常、スポーツ系車両などの動力性能が秀でたクルマやエコカーは、タイヤメーカーと専用のタイヤを開発することが多いが、本車の開発においては「タイヤに頼らない設計」を開発の指針として貫いており[33]、タイヤメーカーが車両の開発には一切関わっていない。(ただし、後にブリヂストンのポテンザシリーズから86専用タイヤが発売された。)
グレード
「RC」「G」「GT」の3グレードの構成となり、上級グレードの「GT」には最上級仕様の「GT “Limited”」が用意される。
- RC
- 「G」の装備から、スピーカー(ハーネス含む)やエアコン(ヒーターのみ)、ルームランプやフロアサイレンサー等を省略して低価格化と軽量化を行い、競技用車両への改造を前提としたグレードである。これらの省略された装備はエアコンも含めてオプションでも選ぶこともできない。同時に、外装もバンパーやドアミラー、外側ドアハンドルなどは未塗装(素地)のものが使用され、ホイールもスチールである。なお、本グレードのみ6速AT車は選択不可となり、価格も200万円を下回る。
- G
- 基本となる標準グレード。16インチタイヤ&アルミ・ホイール、電動格納式ドアミラー、ワイヤレスドアロックリモートコントロール(盗難防止システム付)、マニュアル・エアコン、2スピーカー(オーディオレス)等を標準装備する。バンパーやドアハンドル等の外装はボディーカラーと同色になる。
- GT
- 「G」をベースに、ヘッドランプをハロゲン式からディスチャージ・ヘッド・ランプへ変更し、タイヤとホイールは17インチへとインチアップされ、スマート・エントリー・スタート・システム、コンライト、左右独立温度コントロール・フルオートエアコン、本革巻きステアリング、プライバシーガラス、トップシェイド入りフロントガラス、フレームレス防眩ルームミラー、ルームランプ、運転席・助手席照明付バニティミラー等の各種豪華装備を標準装着した上級グレードである。AT車はパドルシフト付きとなる。
- GT “Limited”
- 「GT」の装備に加え、内装は本革とアルカンターラのシート表皮(ブラックとレッドの2色設定、シートヒーター付き)に変更され、外装はリアスポイラーとフロアアンダーカバーを装着し、さらに専用の高摩擦ブレーキパッドを標準装備する最上級仕様となる。
グレード | GT | G | RC | ||
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“Limited” | |||||
変速 | 6速AT (パドルシフト付き) / 6速MT | 6速AT / 6速MT | 6速MT | ||
外装 |
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電動格納式ドアミラー | 電動ドアミラー | ||||
照明 |
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車輪 |
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| |||
特別装備 | - | ||||
内装 | |||||
座席 | 本革×アルカンターラ | 上級ファブリック | ファブリック | ||
計器盤 |
| ||||
保安 |
|
| |||
空調 | 左右独立フルオートエアコン | マニュアルエアコン | ヒーター | ||
音響 | 6スピーカー | 2スピーカー | - | ||
価格 | 297万円 | 279万円 | 241万円 | 199万円 | |
AT | 305万円 | 287万円 | 248万円 | - |
販売
販売実績
2012年2月の発表から約1か月間で、月間目標販売台数の7倍に当たる約7,000台を受注しており、スバル・BRZと合わせて年間10万台の生産を目指している[34]。トヨタ社長の豊田章男が販売前から予想していたとおり、60代前後のシニア層にも販売好調だという[35]。また注文からの工場出荷予定は2012年8月現在、同年11月以降になる見込みである[36]。
取り扱いディーラー
- トヨタの全販売チャンネル(トヨタ・トヨペット・カローラ・ネッツ)で取り扱い、店舗によっては展示車と試乗車が用意されており、また全国のトヨタディーラーの283店舗内にはトヨタ・86専門カスタマイズショップ「AREA86」を設置し、専門の教育を受けた販売スタッフとメカニックを常駐させている。
他のトヨタ車との関係
AE86との関係
86は、AE86型カローラレビン/スプリンタートレノ(通称:ハチロク)のように、お客様に愛され、育てていただきたいという想いから命名されており[37]、AE86のように走りのフットワークが軽快で、かつユーザーが「育てる楽しみ」を味わえるような車にしたい、という思いが込められている。また開発コードとして86番(086A)を採番するためにタイミングを図って申請が行われた[38]。AE86の現代版というコンセプト[39]やリバイバル[40]とされるが、決してAE86を焼き直すという考えでは開発されておらず、ボディの寸法や排気量はAE86よりもサイズアップした全く新しい車である[40]。
AE86が持っていた「比較的低価格でスポーツドライビングを楽しめるクルマ」「そこそこのパワーで、クルマ本来の運転する楽しさ」「ハイテクや制御に頼らないクルマ本来の気持ちよさ」といった部分を取り入れて開発しており[23][39]、その背景から「ハチロク復活」や「新ハチロク」と表現された[23][40]。
トヨタ・スポーツ800との関係
開発主査の多田が安価で小型なスポーツカーの開発を命じられて最初に見に行ったのは、水平対向エンジン搭載の小型FRスポーツカーのトヨタ・スポーツ800(通称:ヨタハチ)であり、同車の設計図が収蔵されている関東自動車工業(当時。現・トヨタ自動車東日本)まで出向いて研究を重ねた。そこで「水平対向エンジンとFR駆動」というパッケージングを採用することを決定した。つまりトヨタ・86のコンセプトの原点は、車名の由来ともなったAE86型「カローラ・レビン&スプリンター・トレノ」ではなく、トヨタ・スポーツ800である[41]。
トヨタ・2000GTとの関係
86のクレイモデルを製作するに当たっては、トヨタ・2000GTをデザイン部門の部屋に置いて作業を行った[42]。サイドから見た86のウインドウラインや前後フェンダー形状、前面投影面積を減らし、空気抵抗の低減とボディ剛性を考慮したパコダルーフの形状は2000GTをモチーフとしたデザインになっている。
スバル・BRZとの違い
富士重工業でも、兄弟車となるスバル・BRZが販売されている(販売開始日はスバル・BRZのほうが早く、2012年3月28日販売開始)。エンジンなどの基本部分は同じだが、フロント部の形状や設定カラー、内装、オプションに一部違いがある。 乗り味にも違いがあり、自動車評論家のレビューでは「86がリアを滑らせて楽しませる」志向なのに対して「BRZはグリップを重視した安定志向のセッティング」であると評されることが多い。しかし、これらの論調に対し86のCEである多田は、「86とBRZではドライバーへのインフォメーションやフィーリングのわずかな違いを演出しただけであり、リアのスタビリティの高さは両車同じである」と説明している。[43][44]。名称のBはボクサーエンジン(Boxer Engine)、Rは後輪駆動(Rear wheel drive)、Zは究極を意味している[45]。
また、モータースポーツベースグレードの両者の違いとしては、BRZ RAにはメーカーオプションでエアコンの設定があるが、86 RCには無い[46]。BRZの全グレードでディスチャージヘッドランプが標準装着となる。
車高を下げるチューニングを行う場合は、ウィンカーとフォグランプの位置の関係で、86は20mm程度、BRZは30mm程度と、86の方が許容範囲が狭い。道路運送車両の車両保安基準第41条2項、細目104条「方向指示器」の項で「指示部の上縁の高さが2.1m(側面は2.3m)以下、下縁の高さが0.35m以上」と定められており、ヘッドライトユニットから独立してバンパー下部にウィンカーが取り付けられている86は、ヘッドライトユニットとウィンカーが一体化しているBRZに比べて車高を落とせない。このことにより、チューニングベースとしては86よりBRZの方が優れているとみるモータースポーツ関係者も存在する。
沿革
- 2008年4月、小型FRスポーツ車をトヨタと富士重が共同開発し、両社で市場展開していくことで合意。
- 2009年10月、第41回東京モーターショーに世界初出展。
- 2010年1月、東京オートサロンにて、「FT-86 Gスポーツコンセプト」が初公開。
- 2010年11月25日、SCEから発売されたプレイステーション3専用ソフト『グランツーリスモ5』[47]にて「FT-86 コンセプト」と「FT-86 Gスポーツコンセプト」が登場。ゲームとしては初めての収録となった(後にアップデートにて86市販モデルも収録)。
- 2011年2月、ジュネーブモーターショーにて「FT-86 IIコンセプト」が初公開。
- 2011年4月20日、ニューヨークオートショーにて「FR-S concept」が公開。サイオンブランドでの販売を公表。
- 2011年5月16日、SEGAのアーケードゲーム頭文字D ARCADE STAGE 6 AAにて、「FT-86 Gスポーツコンセプト」が登場[48]、ハチロクを起用して有名になった頭文字Dで新旧ハチロクの対戦も可能となった[49]。
- 2011年10月、ニュル耐久選手権(VLN)に出場。
- 2011年11月11日から11月13日にかけて行われたSUPER GT JAFグランプリにおいて翌シーズンからBRZがGT300クラスにR&D SPORTから参戦することが発表された。
- 2011年11月27日、「TOYOTA Gazoo Racing FESTIVAL 2011」(TGRF)にて市販仕様車をワールドプレミア。同時に正式名称を「86(ハチロク)」とすることが発表された[50]。
- 2011年12月、第42回東京モーターショーに市販仕様車「86(ハチロク)」を出品。
- 2012年2月2日、発表。
- 2012年3月16日、富士重工業群馬製作所本工場にてラインオフ式典を開催。
- 2012年4月6日、発売。
- 2012年5月20日、第40回「ニュルブルクリンク24時間レース」にてGazoo Racingの166号車がSP3クラス優勝。
- 2012年、スクウェア・エニックスのアーケードゲーム超速変形ジャイロゼッターにて「86 G」が登場。
ギャラリー
GT
-
Toyota 86 GT
色:ライトニングレッド <C7P> -
前部灯火類
-
エンブレム
-
エンブレム
-
パーキングブレーキレバー
-
パドルシフター (AT)
モータースポーツ
2012年にニュルブルクリンク24時間レースにGAZOO Racingチームから2台が参戦し、166号車がSP3クラスでクラス優勝(総合46位)した。
受賞
- ビークル ダイナミクス インターナショナル アワード(VDIアワード、UKIPメディア&イベンツ主催)- 2012年 カー オブ ザ イヤー
その他
- タイヤは、86専用ではなくトヨタ・プリウスのものを流用している。
- カーシミュレーションゲームである「グランツーリスモ5」に、86 GT(2012年式)、FT86・コンセプト(2009年)、FT-86 II コンセプト(2011年)の3台が登場している。
- 2011年末の発表時と、2012年春の発売時ではアクセルペダルの形状が異なる。
脚注・出典
- ^ トヨタ・ダイハツ・富士重、開発・生産における新たな協力関係に合意 - トヨタ自動車・2008年4月10日
- ^ a b TOYOTA、東京モーターショーに「86(ハチロク)」を出展、トヨタ公式サイト 2011年11月27日
- ^ トヨタ、小型FRスポーツ「86(ハチロク)」正式発表、199万円から - Car Watch・2012年2月2日
- ^ 本車種発表の時点でネッツトヨタ徳島への吸収合併が決定していたため。実際、2012年5月1日に合併された。
- ^ トヨタ「86」、若年層狙い低価格設定 13年に専用レース開催も、Sankei Biz 2012年2月3日
- ^ トヨタ「FT-86 Concept」、新ハチロクの開発目標はドリフト性能世界一、日経トレンディ 2009年10月26日
- ^ トヨタ 86、価格は199万円から - Response.・2012年2月2日
- ^ トヨタの新型FRスポーツ、車名はFR-Sか - Response. 2010年6月18日
- ^ SCION INTRODUCES FR-S SPORTS COUPE CONCEPT AT 2011 NEWYORK AUTO SHOW - SCION News & Press、2011年4月20日
- ^ トヨタ自動車、ニューヨーク国際オートショーに小型FRスポーツカー「FR-S concept」を出展 - トヨタ企業サイト ニュース、2011年4月21日
- ^ トヨタ「86」を韓国で6月発売日本経済新聞2012年5月24日
- ^ Danny Tan (2012年6月1日). “Toyota 86 officially launched in Malaysia – manual goes for RM243k, auto RM249k, we try it!”. paultan.org. 2012年6月1日閲覧。
- ^ “【インドネシア】トヨタがスポーツカー初投入、新イメージ構築[車両]”. NNA.ASIA (2012年6月4日). 2012年6月4日閲覧。
- ^ a b モーターファン別冊 トヨタ 86のすべて p18
- ^ a b c d 誰でも買えるスポーツカー「86」復活!トヨタ社長に直訴した多田氏、産経ニュース 2011年12月11日
- ^ 【トヨタ 86 発表】マツダ ロードスター の父、祝辞に登場、Response 2012年2月2日
- ^ a b モーターファン別冊 スバル BRZのすべて p21
- ^ トヨタ 86 先行公開…開発責任者「ターボなどを否定するところから」、Response 2011年11月27日
- ^ トヨタ 86 (ハチロク) 開発ストーリー デザイン GAZOO
- ^ トヨタ 86 (ハチロク) 商品概要(エクステリア) GAZOO
- ^ キーンルックとは、「知的で明晰な印象を与え、フロントフェイスに独自性をもたらすトヨタの新しいデザイン表現。」とアナウンスされており、スポーツ系のみならず、2011年3月のジュネーブモーターショー出品のヤリス HDSにも採用されている。
- ^ TOYOTA、東京モーターショーに小型FRスポーツ、プラグインハイブリッド車、都市型EVの新たなコンセプトカーを出展 - トヨタ自動車・2009年10月6日
- ^ a b c トヨタ「FT-86 Concept」、新ハチロクの開発目標はドリフト性能世界一(1/4ページ) - 日経トレンディネット・2009年10月26日
- ^ 【東京モーターショー09】トヨタ FT-86、造形のトライ - レスポンス・2009年10月21日
- ^ 4ドアクーペ。排気量は1,308cc(654cc×2)だが、ロータリーエンジンを搭載しているため、自動車税は1,962cc相当として扱われることから掲載。
- ^ その証としてエンジンのインマニ上面のカバーには「TOYOTA D-4S」と「BOXER SUBARU」が併記されている。
- ^ 【スバル BRZ 事前試乗】圧倒的低重心が生み出すスーパーカーフィールResponse 2011年12月15日(2012年2月7日閲覧)
- ^ スバル各車のギアボックスはトランスアクスルであり、エンジンもフロントオーバーハングに位置する。
- ^ トヨタ86(ハチロク)はフロントミッドシップを宣言、ではスバルBRZは?【東京モーターショー】、exciteニュース 2011年12月5日
- ^ 2013 Scion FR-S/Toyota 86 Chief Engineer Tetsuya Tada Interview 5分13秒
- ^ トヨタFT-86市販車の最終スペック全容が判明!! 【保存版】、クリッカー 2011年11月7日
- ^ なお、プリウスに使われているという理由だけで、プライマシーHP を誤って“エコタイヤ”と表記した記事もあるが、もちろんエコタイヤではない。ミシュランのサイトにも『PRIMACY HP は、ウェット性能とドライハンドリング性能を高水準で両立し、ドライビングプレジャーを追求するプレミアム・ハイパフォーマンス・タイヤです』と記述されている。
- ^ 2013 Scion FR-S/Toyota 86 Chief Engineer Tetsuya Tada Interview 6分49秒
- ^ トヨタ86&スバルBRZ生産開始 受注好調で年10万台目標、産経ニュース 2012年3月16日
- ^ スポーツカーとトンカツ好き…アクティブシニアに試行錯誤、Sankeiビジネス 2012年2月3日
- ^ 86 納期目処についてのご案内(8/1更新)
- ^ 86の車名の由来は何ですか?toyota.jp 車名の由来
- ^ 誰でも買えるスポーツカー「86」復活!トヨタ社長に直訴した多田氏 - [SankeiBiz] 2011年12月11日
- ^ a b トヨタ FT-86 コンセプト - carview.co.jp
- ^ a b c 「ハチロク」復活! トヨタFT-86コンセプト - アサヒ・コム編集部 2009年10月21日
- ^ トヨタ 86(ハチロク) 開発ストーリー 夢の始動
- ^ トヨタ 86(ハチロク) 開発ストーリー デザイン
- ^ 【スバル BRZ 試乗】超安定の BRZ とドリフトの 86 …竹岡圭、 2012年2月9日、Respose.
- ^ 【スバル BRZ 発表】トヨタ 86 との走りの違い、2011年12月9日、Response.
- ^ スバル・BRZ公式サイト
- ^ 86・BRZとも標準ではエアコンレス(ヒーター機能のみ)となっている。
- ^ 製作はポリフォニー・デジタル
- ^ 2011年5月のニュース 頭文字D ゲーム 公式サイト、2011年5月9日
- ^ 特定の条件を満たせば購入可能となる。ただしチューニングはできない。また、上述のグランツーリスモ5でも同様の対戦が可能。
- ^ “FT-86の正式名称は『86(ハチロク)』に決定”. AUTOSPORT web(オートスポーツweb) (イデア). (2011年11月27日) 2011年11月27日閲覧。