革命
革命(かくめい、英語: Revolution、レボリューション)とは、権力体制や組織構造の抜本的な社会変革が、比較的に短期間に行われること。対義語は保守、改良、反革命など。
「レボリューション」の語源は「回転する」の意味を持つラテン語の「ラテン語: Vulgar」で、ニコラウス・コペルニクスの科学革命で使用され、後に政治的変革に使用されるようになった[1]。また漢語の「革命」の語源は、天命が改まるとの意味で、王朝交代に使用された。
革命は人類の歴史上、さまざまな方法や期間、動機となった思想によって発生した。その分野には、文化、経済、社会体制、政治体制などがある(農業革命、産業革命、フランス革命、ロシア革命など)。また、何が革命で何が革命でないかの定義は、学者の間で議論が続いている。
語源
西洋
1543年にニコラウス・コペルニクスは地動説の論文「天球の回転について」を出版した。その題名で使用された「回転」(Revolution)は天文用語であったが、後に政治体制の突然の変革に使用された。この用語の政治的な最初の使用は、1688年のイギリスでのジェームズ2世からウィリアム3世への体制変革で、名誉革命と呼ばれた[2]。
漢語
漢語の「革命」の語源は、天命が改まるという意味である(「命(天命)を革(あらた)める」)。古代中国では易姓革命など東洋での王朝交代一般を指す言葉であった。東洋においては革命と王朝交代はほぼ同一の概念であったが、西洋においては革命が起きなくても王朝が交代することもあり、革命と王朝交代は同一の概念ではない。そのため、西洋では「反革命」と表現されるものも東洋では「革命」とされることもある。
概要
一般に革命という概念は正当性を備えている既存の政治秩序を変更させる政治的活動と関連しており、歴史的には1688年の名誉革命や1789年のフランス革命などの市民革命を挙げることができる。近代以後の政治理論においては革命の概念は古い政治秩序の破壊と新しい政治秩序の構築をもたらす動態的かつ抜本的な変革を意味している。初期の革命の理論家であったカール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスの見解によれば、革命とは本質的には歴史の中で繰り返された社会変革であり、それは経済システムの破壊を意味する。言い換えるならば、それは経済体制において抑圧している階級と抑圧されている階級の間で生じる階級闘争を反映するものであり、革命とは経済社会が発展する歴史の中で繰り返し現れる事象であると考えられている。したがって、マルクス主義の立場に立った革命の理論においてウラジミール・レーニンが指摘していたように二つの重要な目標が革命に与えられる。一つは階級社会を崩壊させること、もう一つは指導的な革命政党を確立することである。1905年と1917年に発生したロシア革命はマルクス主義の革命の理想を目指して実行されたものであり、中国における革命指導者の毛沢東の革命思想も共産主義革命の潮流に位置づけることができる。
しかし現代の革命理論では古典的な革命理論にはなかった着眼点が導入されることになる。これは戦後に非西欧地域において発生した事例を考慮に入れながら新しい枠組みで革命を捉える必要が出てきたからである。新しい理論では革命の本質が社会変革ではなく政治変革にあり、また歴史的な必然ではなく特定の政治的な環境による成果であると認識されている。このような理論はデイヴィッド・イーストンの政治システムの概念の影響を受けており、政治への入力と出力から政治現象を理解しようとしている。この概念を踏まえながらチャルマーズ・ジョンソンは政治システムの多元的な機能不全から革命が勃発すると主張し、社会的諸条件の変化の圧力に耐えることができなくなった時に表面化すると論じた。またテッド・ガーは人々が期待する受益と人々の実際の受益に格差がもたらされることで相対的な剥奪が生じることを指摘し、そのことが革命の原因となることを考察した。さらにシーダ・スコチポルは革命という事態を社会構造から説明しており、それは大規模な戦争や軍事的侵攻によってもたらされる国内の政治体制の無効化の結果であることを指摘している。
なお、軍隊など政府・支配階級内の勢力が起こす非合法的な手段による政権奪取・限定的な体制変更についてはクーデターと呼ぶ。ただし1968年、イラクでクーデターで権力を握ったバアス党政権や、1969年のクーデターで成立した現在のリビアのカッザーフィー政権など、実際はクーデターで政権を掌握したにもかかわらず、政権側が、前政権を全否定する意味でクーデターによる政権掌握を「革命」と呼んでいる場合も多い。
ハンガリー動乱(英:Hungarian Revolution)のように当時は反革命として否定されていても、後に革命であったと再評価される例もある。また保守の側からの革命を保守革命と呼ぶ事もある。
讖緯説における革命概念
また未来予言の方法として発展した讖緯説においては、革命は緯書(予言書)に予め記載されており、特に辛酉の年には必ず革命が発生して政治・社会の変革を伴うと唱えられた。これに対して有徳の君主は緯書の定めた通りに行動することによって易姓革命などを未然に回避出来ると考えられた。その一環として辛酉、後には甲子の年にも改元が行われて君主が率先して政治・社会の変革の意志を明らかにすることが行われた(「辛酉革命」・「甲子革令」)。
日本における革命
中国大陸は多くの革命を経験しており、また朝鮮半島やベトナムでも革命は起こっているが、それらに比して日本では、有史以来革命が起こったことがないとされている。政権の交代はしばしば発生したが、天皇の家系もしくは天皇の臣下(征夷大将軍や関白)という形式を崩さなかったからである。江戸時代の山崎闇斎(『泰山集』)や水戸学の藤田東湖(『弘道館記述義』)のように、日本は天照大神以来の万世一系の皇統を持つ唯一無二の国家であるとして、易姓革命を否定して国粋主義を高揚させる逆説的な論理で用いられることもあった。ただし、クーデターの類とされるものは多数起きており、その中には他国の革命に相当するほどの劇的な政治体制の変化が起きたこともある(壬申の乱など)。
吉田松陰の思想を背景として起こった明治維新は保守革命ともいわれ、あるいはまた西欧でいうクーデターとは異なる独自の意味として「維新」を考える学説もある(藤田省三、松本健一ら)。なお明治維新の英訳語は「王政復古」という意味で「Meiji Restoration」である。また北一輝らの民族主義ないし国家社会主義的革命理論では、天皇および国体を真正のものへと変革(革命)することが目指された。三島由紀夫も陽明学の影響のもとに、保守革命を企画した。
いずれにせよ、近代の訳語としての「革命」に対して、明治維新で成立した大日本帝国政府は徹底的な弾圧を行った。大逆事件に見られるごとく、テロの準備と実行、政府への批判、なかんずく過激な民主主義や共和制を主張する者を「天皇への敵」として烈しく弾圧した。また、敗戦後の占領下でも、共産主義運動による国家分断を恐れたGHQによってレッドパージが行われ、鎮圧以降も、近代的な意味での暴力革命を志向していた新左翼運動への公安対策がとられた。政治学者の藤田省三はこうした日本における革命概念の忌避と天皇制国家の支配原理とを踏まえて論じている[3]。
主な革命一覧
政治
- 市民革命(結果的に資産階級が利益を得た革命)
- 労働者や農民等、現代の意味における「市民」による革命
- ハイチ革命(1791年 - 1804年) - フランス革命の影響を受けたルーヴェルチュールらが、ナポレオンの侵攻を打ち破り、奴隷制度を廃止し、世界初の黒人による共和国ハイチを建国した。
- 1848年革命(1848年 - 1849年、フランス(フランス2月革命[6])、ドイツ・オーストリア(ドイツ・オーストリア3月革命[7])
- ロシア第一革命(1905年)
- メキシコ革命(1911年 - 1920年)
- 辛亥革命(1911年、中国)
- トルコ革命(1922年 - 1923年)
- ボリビア革命(1952年)
- 4・19学生革命(1960年、韓国)
- ペルー革命(1968年 - 1975年)- フアン・ベラスコ・アルバラード将軍による「革命的国民主義」政権の時代
- エドゥサ革命(1986年)
- バラ革命(2003年、グルジア)
- オレンジ革命(2005年、ウクライナ)を始めとする色の革命
- チューリップ革命(2005年、キルギス)
- ジャスミン革命(2011年、チュニジア)
- エジプト革命(2011年、エジプト)
- 共産主義革命、社会主義革命(インフラストラクチャーなどの国有化まで進めた革命)
- パリ・コミューン(1871年)
- ロシア革命(1917年)二月革命と十月革命の二段階に発生[8]。
- ドイツ革命(1918年 - 1919年)
- キューバ革命(1959年)
- チリ革命(1970年 - 1973年) - 平和革命であり、史上初の民主的な選挙によって成立した社会主義政権だったが、チリ・クーデターによって終焉した。
- ニカラグア革命(1979年) - 社会主義革命というよりはブルジョワジーも巻き込んだソモサ王朝への反独裁闘争の側面が強く、マルクス主義ではなく、サンディーノ主義に基づいた革命だった。
- 国共内戦 (1945年 - 1949年、中国)
- 文化大革命(1966年 - 1979年、中国)
- イスラム革命
- 反ファシズム革命
- 反共産主義革命
- その他の革命
文化
経済・技術
脚注
- ^ Repcheck, Jack (2007) Copernicus' Secret: How the Scientific Revolution Began Simon Schuster, New York, ISBN 978-0-7432-8951-1
- ^ Richard Pipes, A Concise History of the Russian Revolution
- ^ 藤田省三『天皇制国家の支配原理』未來社
- ^ オランダ統領ウィリアム3世による政権奪取という説もある。
- ^ 学説によっては七月革命と呼称。
- ^ 学説によっては二月革命と呼称。
- ^ 学説によっては三月革命と呼称。
- ^ 十月革命は、クーデターであったとする説もある。
- ^ 南利明 & 1998年, pp. 97.
関連項目
参考文献
- 中野実著『革命 現代政治学叢書4』東京大学出版会、1989年
- Brinton, C. 1938. The anatomy of revolution. New York: Vintage.
- ブリントン著、岡義武、篠原一譯訳『革命の解剖』岩波書店、1952年
- Edwards, L. P. 1927. The natural history of revolution. Chicago: Univ. of Chicago Press.
- Eisenstadt, S. N. 1978. Revolution and the transformation of societies. New York: Free Press.
- Goldstone, J. A. ed. 1978. Superpowers and revolution. New York: Praeger.
- Goldstone, J. A. ed. Revolution: Theoretical, comparative, and historical studies. San Diego and New York: Harcourt Brace Jovanovich.
- Goldstone, J. A. Revolution and rebellion in the early modern world. Berkeley and Los Angeles: University of California Press.
- Goldstone, J. A., T. R. Gurr, and F. Moshiri. eds. 1991. Revolutions of the Late 20th Century. Boulder, Colo.: Westview Press.
- Gurr, T. R. 1970. Why men rebel. Princeton: Princeton Univ. Press.
- Gurr, T. R. 1980. Handbook of political conflict. New York: Free Press.
- Huntington, S. P. 1968. Political order in changing societies. New Heaven, Conn.: Yale Univ. Press.
- ハンチントン著、内山秀夫訳『変革期社会の政治秩序』サイマル出版会、1972年
- Johnson, C. 1966. Revolutionary change. Boston: Little, Brown & Co.
- LeBon, G. 1913. The psychology of revolutions. New York: Putnam.
- Moore, B., Jr. 1966. Social origins of dictatorship and democracy: Lord and peasant in the making of the modern world. Boston: Beacon Press.
- ムーア著、宮崎隆次ほか訳『独裁と民主政治の社会的起源 近代世界形成過程における領主と農民』岩波書店、1986-1987年
- Pettee, G. S. 1938. The process of revolution. New York: Harper & Row.
- Skocpol, T. 1979. State and social revolutions: A comparative analysis of France, Russia, and China. Cambridge: Cambridge Univ. Press.
- Tilly, C. 1978. From mobilization to revolution. Reading, Mass.: Addison-Wesley.
- ティリー著、小林良彰ほか訳『政治変動論』芦書房、1984年
- Trimberger, E. K. 1978. Revolution from above: Military bureaucrats and development in Japan, Turkey, Egypt, and Peru. New Brunswick, N.J.: Transaction Books.
- Walton, J. 1984. Reluctant rebels: Comparative studies of revolution and underdevelopment. New York: Columbia Univ. Press.
- 南利明「NATIONALSOZIALISMUSあるいは「法」なき支配体制(三)」『静岡大学教養部研究報告. 人文・社会科学篇』25(1)、静岡大学、1989年、61-98頁、NAID 110007615716。