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ダメージコントロール

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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ダメージコントロール英語: damage control)とは、物理的な攻撃・衝撃を受けた際に、そのダメージや被害を必要最小限に留める事後の処置を指す。通称「ダメコン」などと呼ばれる。自動車分野、医療分野、格闘技などのスポーツ軍事分野などで使われる。

医療分野

重症の外傷により致死的三徴(代謝性アシドーシス(pH<7.2)、血液の凝固異常(PT・APTTの1.5倍以上の延長)、低体温(35度未満))が切迫した場合、これに大規模な根治的手術の侵襲が加わると、患者にとって致死的となりかねない場合がある。この場合、呼吸と循環に関わる損傷の治療を最優先とし、それ以外の部分は全身状態が良くなってから二期的に再手術とすることがある。この場合の初回手術はダメージコントロール手術(Damage control surgery, DCS)として、開胸・開腹術では、ガーゼ圧迫留置(パッキング)や単純結紮など止血と汚染回避に徹した簡易術式が選択される。

腹腔内圧が高く閉腹困難である場合、輸液用のフィルムバッグによる閉腹(silo closure)も検討される。多くの三次救急医療機関では、ダメージコントロールの思想を駆使して、多発外傷患者の救命に全力を尽くしている。

軍事

自爆攻撃を受け、左舷に12m四方の亀裂が生じたアメリカ海軍アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦コール
ダメージコントロールが行われたことで、その日の晩までに機関部への浸水を食い止めることに成功した

軍事分野での「ダメージコントロール」とは、具体的にはハードとソフトに大きく分けられる。前者には延焼防止策としての防火隔壁や自動消火装置、浸水の拡大を防ぐ水密隔壁や浸水の際転覆防止策としても用いられるバラストタンク、NBC兵器対策としての海水による船体洗浄システムなどがあげられ、後者には、人員配置や実際の実行手順などを定めたマニュアル、日常の教育・訓練や実際の運用などがあげられる。軍艦が敵の攻撃などにより損傷を受けた際、被害拡大を抑制しつつ施されるこれらの処置を「応急」とも言う。

すなわち、非軍事分野において広く行われている防災訓練は「ダメージコントロール」対策訓練ともいえる。一般的には装甲を強化するといった被害自体を受けないようにする行為は「ダメージコントロール」の分野には含まれず、あくまで被害を受けた場合にその被害局限の対策を指す。

軍艦などの「ダメージコントロール」についての情報は最高機密扱いとなる。米西戦争日清戦争の頃から艦艇などの被害を軽減する方法としてダメージコントロールは知られていたが、太平洋戦争中に大規模な海戦を経験したアメリカ海軍大日本帝国海軍の頃の戦訓を取り入れた海上自衛隊の艦艇と比べ、それらの経験が比較的少ないヨーロッパ諸国の艦艇は、現在でも可燃性のある材質を使用していたり被弾しやすい箇所に弾薬庫や士官室が配置されているなどの点が見られる。こういったものは実戦を経験して初めて得られるノウハウでもあるため、訓練等で補うのは難しい。フォークランド紛争においてイギリス海軍駆逐艦シェフィールド」がエグゾセ対艦ミサイルの攻撃を受けた際、不発だったにも拘らずミサイルに残された燃料による火災が発生、艦内の広範囲に渡って延焼した事例は有名であり、それを知った他国海軍も戦訓として取り入れ、艦内からの可燃物撤去がさらに徹底されるようになった。

反対に、それらの経験を踏まえて設計された艦艇・訓練を行っているアメリカ海軍では、米艦スターク被弾事件米艦コール襲撃事件において、ダメージコントロールを迅速・確実に行った結果、(非戦時で、安全な後背地が近かったこともあり)米艦艇は沈没を免れている。

もっとも先見の明というものはあり、太平洋戦争においてはじめて実戦投入された艦種である航空母艦のダメージコントロールについて、日本海軍は実戦で甚大な被害を受けてからようやく対策に乗り出した反面、アメリカ海軍は実戦を経験する以前から対策に余念がなかった。

その他

  • ヘアケア製品 - 頭髪の劣化を防いだり、ある程度の補修機能がある製品を、ダメージコントロールと称して販売される事がある。
  • 減災 - 災害時発生した被害を最小化するための(ソフト・ハード両面での)取り組みや考え方。

参考文献

  • 吉野篤人「damage control surgery(DCS),およびplanned reoperation [外傷処置]」『今日の治療指針 2011年版』医学書院、2011年。ISBN 978-4-260-01105-1