時計じかけのオレンジ
『時計じかけのオレンジ』(A Clockwork Orange)は、イギリスの小説家アンソニー・バージェスによるディストピア小説。1962年発表。又は、アンソニー・バージェスの原作からスタンリー・キューブリックにより映画化されたイギリス映画。1971年公開。日本での公開は1972年4月。本項では主に映画について記す。
暴力やセックスなど、欲望の限りを尽くす荒廃した自由放任と、管理された全体主義社会とのジレンマを描いた、サタイア(風刺)的作品。説話上は近未来を舞台設定にしているが、あくまでも普遍的な社会をモチーフにしており、キューブリックの大胆さと繊細さによって、人間の持つ非人間性を悪の舞踊劇ともいうべき作品に仕上がっている。原作同様、映画も主人公である不良少年の一人称の物語であり、ロシア語と英語のスラングで組み合わされた「ナッドサット言葉」が使用されている。
※本作品は皮肉の利いた鮮烈なサタイア(風刺)だが、ごく一部には暴力誘発の誤解や間違った触発を受けている者もいる。
注意:以降の記述には物語・作品・登場人物に関するネタバレが含まれます。免責事項もお読みください。
ストーリー
近未来のロンドン。アレックス・デラージ(Alex DeLarge)をリーダーとする4人組は、今夜も街に繰り出しては暴力行為にふけっていた。ホームレスの老人を袋叩きにし、他の不良グループも叩きのめし、ある作家の家に押し入り暴力を振るった上にその妻を犯す。翌日、学校をサボった彼は、レコード店で引っかけた女の子2人と自宅でセックスをする。その夜、一軒家に侵入して老婦人を撲殺した後、仲間の裏切りに遭ったアレックスは、1人警察に逮捕され、懲役14年の実刑判決を言い渡された。
収監されて2年。内務大臣の視察をきっかけに、アレックスは悪人を善人にするという「ルドヴィコ療法(the Ludovico technique)」の被験者に選ばれた。14年の獄中生活から逃れるため、彼はこれを志願した。
直ちに治療が実施された。椅子に縛り付けられたアレックスは、クリップで目蓋をこじ開けられて、残虐描写に満ち満ちた映像をひたすら見せられた。映像のBGMに使われていたのは、彼が好んで聴いていたベートーヴェンの第九であった。
治療は成功し、以後彼は、性行為や暴力行為に及ぼうとすると吐き気を催すほどの嫌悪感を身体に植え付けられる。それは、愛好していたはずの第九を聴いたときですら同様であった。
暴力を振るえない善人となって出所したアレックスだが、家に帰ると両親には受け入れられず、ホームレスの老人、今や警官になったかつての仲間、そして以前に押し入った作家の復讐を受ける。アレックスが自殺を図ったことから、マスメディアは政府を批判する。療法の効果を解かれたアレックスは、元の暴力的なアレックスに戻る。
削除された章
本来の原作は21章から成るが、アメリカでは最終章が削除されて出版された(日本語版はアメリカ版の翻訳)。キューブリックが映画化の基にしたのはアメリカ版であり、原作者であるバージェスの意図したラストとは異なっている。その後、アメリカ版では第21章が復活したが、日本語翻訳版では削除されたままである。
スタッフ
- 製作・監督・脚本:スタンリー・キューブリック
- 撮影:ジョン・オルコット
- プロダクション・デザイン:ジョン・バリー
出演
マルコム・マクダウェル
パトリック・マギー
アドリエンヌ・コリ
ウォーレン・クラーク
ジェームズ・マーカス
マイケル・ターン
ミリアム・カーリン
音楽
- 『交響曲第九番ニ短調』(作曲=ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン)
- 『泥棒かささぎ』『ウィリアム・テル序曲』(作曲=ジョアッキーノ・ロッシーニ)
- 『威風堂々』(作曲=エドワード・エルガー)
- 『メリー女王葬送曲』(作曲=ヘンリー・パーセル)
- 『太陽への序曲』(作曲=テリー・タッカー)
- 『灯台守と結婚したい』(作曲=エリカ・インゲン)
- 『雨に唄えば』(作詞=ナシオ・ハーブ・ブラウン、作曲=アーサー・フリード、歌=ジーン・ケリー)
電子音楽作曲・編曲・演奏=ウォルター・カーロス(後にウェンディ・カーロス)