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アルミニウム合金製の鉄道車両

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アルミ車両の例:203系(形式消滅)

アルミニウム合金製の鉄道車両(アルミニウムごうきんせいのてつどうしゃりょう)は、車体外板、内部構体をほぼ全てアルミニウム合金で製造した鉄道車両

利点と欠点

アルミニウム合金製の鉄道車両には次のような利点と欠点がある。

利点

  • 車体外板・内部構体ともに耐食性アルミ合金を使用するため、オールステンレス車両同様に腐食に強い。
    • 海浜部を走る神戸新交通8000型と同時期に登場し、同じく海浜部を走る大阪市交通局100系は、普通鋼製車体であった事が災いし、塩害により2001年までに全て廃車となったが、神戸新交通8000型は2009年まで運行されており、車体の構造が明暗を分けた格好である。
  • 普通鋼製の車体に比べ大幅な軽量化を実現できる。またステンレス鋼製車体と比べても軽量化が可能である。
  • 下地処理や補修が不要なため塗装工程も容易になる。あるいは塗装自体を省略することができる。
  • 押出型材を使用することにより、ステンレス製車体に比べ流線形など複雑な形状の車体を製造することができる。
  • 普通鋼製やステンレス製の車体と比べリサイクルしやすく、営団05系電車24編成のように廃車車両から回収されたアルミニウムを再利用して製造された車両もある。

欠点

  • 普通鋼製やステンレス鋼製の車両に比べて、アルミニウムの単価の関係上、製造費が高額になる。そのため輸送密度の低い路線で使われる新車での採用事例は北陸鉄道6010系電車やJR九州の近郊形電車(817系819系)等、ごく少数に限られる。もっとも将来廃車解体したときに受け取るスクラップ価格も高額になるので、一概に欠点とは云い切れない部分もある。
  • ステンレス車ほどではないものの、普通鋼製の車両に比べて加工性が低く、製造後に先頭車化改造などのような車体形状を大きく変える改造が困難である。一部の車両では、新製車ではJR北海道735系電車のように、改造車ではクロ381形10番台の改造部分のように前頭部を普通鋼製とした車両もある。事故で破損した際の修理にも熟練を要する。このため、道路上を走行し接触事故の機会が多い軌道線(路面電車)においては、ドイツシーメンス製の広島電鉄5000形電車(GREEN MOVER)を除き、採用事例は全くない。アルミ車を主流としている京阪電気鉄道京津線800系を普通鋼で製造したのは、併用軌道区間で自動車などと接触した際に修復の容易化を図るためでもある。一方、鉄道線ではあるが特例として併用軌道区間を持つ熊本電鉄では、東京地下鉄から譲渡という形で01形03形を導入している。
  • 塗装を省略する場合、ステンレス鋼製の車両に比べて光沢が低く、汚れが目立ちやすい。無塗装で導入された東急のデハ7200とクハ7500はこの理由で、後にメタリックグレーの塗装を施した。同様に京都市交通局10系は妻面にステンレス板が貼られている。東京メトロでは、帝都高速度交通営団時代から定期的な車両表面の研磨(バフがけ)が行なわれている。

各国での採用

イギリス

本格的なアルミ合金製車両は1949年ロンドン地下鉄に世界で初めて登場し、1952年に大量採用されることとなった[3]

日本

日本では、戦後間もない1946年(昭和21年)に、国鉄63系電車オロ40形客車の車体材料としてアルミニウム合金の一種であるジュラルミンを使用した例がある。これは第二次世界大戦の終戦後、GHQにより航空機の開発・製造を禁止されたため、余った航空機用のジュラルミンを使用したものであった。しかし、耐食性が低いため車体の腐食が急速に進行し、1953年(昭和28年)から翌年にかけてすべて普通鋼製車体に載せ替えられた。

その後、1953年(昭和28年)に南海電気鉄道鋼索線用のケーブルカー車両コ1形でアルミニウム合金製車体が採用された。軽便鉄道用としては1954年(昭和29年)に栃尾鉄道が自社工場にてモハ210をアルミニウム合金製車体で製造している。一般鉄道用では、1960年(昭和35年)に川崎車輛(当時)と日本軽金属が共同開発したアルミナ専用貨車タキ8400形が最初で、1962年(昭和37年)には同じく川崎車輛が西ドイツのWMD社のライセンスにより山陽電気鉄道2000系電車を製造している。

1963年(昭和38年)には日本車輌製造本店が、押出材を用いる独自設計で北陸鉄道6010系電車を製造、高速電車としては山陽に次いで国内二例目となる。

その後日本車輌は1966年(昭和41年)に秩父鉄道300系電車の増備車として中間車であるサハ350形の内の1両をアルミ車体で製造しているが、その構造は前作から変わって同時期に製造された国鉄301系電車(下記)と同様で、その後しばらく日本の鉄道車両におけるアルミ合金製車体の標準となるものであった。

同年、中央緩行線帝都高速度交通営団(現・東京地下鉄東西線の相互乗り入れが開始されるのにあわせ、国鉄・営団ともアルミ車体の電車を新製した。国鉄では301系を7連×8編成56両、5000系はを7連×3編成21両製造している。営団5000系はスキンステンレス車が主体で、アルミ車の導入は将来を見据えたテストケースであった。1968年(昭和43年)には大阪市交通局御堂筋線用として30系電車を144両製造し、これ以後アルミ車両の導入が拡大していった。また、モノレール新交通システムでもアルミ車両を採用した例が多い。

2007年には営団地下鉄を引き継いだ東京地下鉄が、全営業車両の100%アルミ車化を達成している。一方で、四国旅客鉄道(JR四国)や阪神電気鉄道などアルミ車両を全く保有したことのない事業者も存在する。

日立製作所は、標準設計型通勤電車としてA-trainを開発し、私鉄向けに量産している。また、川崎重工業でもA-trainに類似したコンセプトを持つefACE[4]を開発している。

構体構造や組立方法で下記のとおり世代区分される[5]

第1世代

山陽電気鉄道2000系(アルミカー・保存車)

まだアルミ合金製車両の構造、溶接方法・品質が確立されておらず、部分的にリベット接合が採用されたり、外板に波板構造(コルゲート)を採用するなど、試行錯誤が見受けられる。

主な採用車種

※いずれも廃系列

第2世代

東京地下鉄(旧:営団)6000系

アルミ合金板材を切断・プレス曲げした外板と骨格で構成され、MIG溶接およびスポット溶接を全面的に用いており、構造、組立方法は鋼鉄製電車とほぼ同じである。

主な採用車種

など多数。

第2.5世代

大阪市交通局10系(初期車・リニューアル済)

構体の一部分にアルミ押出材(中空材を含む)を採用し、コスト削減と見栄え向上の両立を図っている。

主な採用車種

など多数。

第3世代

近鉄1422系

台枠や側構体軒桁に大形中空押出形材が、他の部位にも大形押出形材が全般的に採用された。大形押出形材を用いて外板と骨格の一部、外板補強を一体化し、スポット溶接適用部位が大幅に削減されている。

主な採用車種

など多数。

第4世代

JR九州815系

台枠、側構体、屋根構体全般にわたって大形中空押出型材が用いられる(「ダブルスキン構造」と呼ばれる)。精度向上やコストダウンに寄与する反面、重量は重くなる傾向にある。車両メーカーによっては形材どうしの溶接に「摩擦攪拌接合」もしくは「レーザー・MIGハイブリッド溶接」を用い、溶接ひずみを減らす努力をしている。日立「A-train」および川崎「efACE」はこの世代にあたる。

主な採用車種
パンタグラフ付きの車種については重量増を嫌い、屋根構体がシングルスキン+垂木構造となっている。
パンタグラフ付きの車種については重量増を嫌い、屋根構体がシングルスキン+垂木構造となっている。

など多数。

その他

新幹線500系

構造が特殊であり、上記のいずれに該当するか不明確なもの。

側・屋根外板にアルミハニカム材(アルミハニカムコアを薄いアルミ板でサンドイッチしたもの)が用いられている。全般的には第3世代に近く、日本アルミニウム協会の資料では第3世代とされている[5]

貨車

アルミ素材メーカーが、材料としての優位性をPRする意図もあり、タンク体だけ[6]でなく台枠まで全アルミ製とした40 t積みアルミナ専用貨車が開発された。

タキ8400形
一般鉄道用としては日本初の全アルミ車。日本軽金属私有貨車で、1960年(昭和35年)から川崎車輌(当時)で15両が製造された。
タキ8450形
タキ8400形と同じく日本軽金属の私有貨車で1962年(昭和37年)から日本車両本店で7両が製造された。
タキ10500形
昭和電工の私有貨車で、1968年(昭和43年)に日立製作所で1両のみ製造された。

台湾

韓国

脚注

  1. ^ キサイネ86形(501を除く)
  2. ^ 中間の動力車を除く
  3. ^ 里田啓『車両を造るという仕事』交通新聞社、2014年
  4. ^ こちらはアルミ車に加えてステンレス車も存在する。
  5. ^ a b アルミニウム合金製品車両の歴史”. (一般社団法人日本アルミニウム協会). 2014年8月21日閲覧。
  6. ^ タンク体のみアルミ製の貨車としては国鉄タム100形貨車 (2代)が初となる。

関連項目

外部リンク