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高野豆腐

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高野豆腐。水で戻した状態

高野豆腐(こうやどうふ)とは、豆腐を凍結、低温熟成させた後に乾燥させた保存食品。乾燥状態では軽く締まったスポンジ状で、これを水で戻し、だし汁で煮込むなどして味を付ける。日本農林規格(JAS)における正式名称は、凍り豆腐である。

概要

だいず、凍り豆腐、乾[1]
100 gあたりの栄養価
エネルギー 2,241 kJ (536 kcal)
4.2 g
食物繊維 2.5 g
34.1 g
飽和脂肪酸 5.22 g
一価不飽和 7.38 g
多価不飽和 18.32 g
50.5 g
ビタミン
ビタミンA相当量
(0%)
1 µg
チアミン (B1)
(2%)
0.02 mg
リボフラビン (B2)
(2%)
0.02 mg
パントテン酸 (B5)
(2%)
0.10 mg
ビタミンB6
(2%)
0.02 mg
葉酸 (B9)
(2%)
6 µg
ビタミンB12
(4%)
0.1 µg
ビタミンC
(0%)
0 mg
ビタミンE
(13%)
1.9 mg
ビタミンK
(57%)
60 µg
ミネラル
ナトリウム
(29%)
440 mg
カリウム
(1%)
34 mg
カルシウム
(63%)
630 mg
マグネシウム
(39%)
140 mg
リン
(117%)
820 mg
鉄分
(58%)
7.5 mg
亜鉛
(55%)
5.2 mg
マンガン
(206%)
4.32 mg
セレン
(27%)
19 µg
他の成分
水分 7.2 g
β-トコフェロール 0.8 mg
γ-トコフェロール 20.4 mg
δ-トコフェロール 10.6 mg

試料: 炭酸水素ナトリウム処理製品
%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標 (RDIの割合。
だいず、凍り豆腐、水煮[1]
100 gあたりの栄養価
エネルギー 480 kJ (110 kcal)
1.1 g
食物繊維 0.5 g
7.3 g
飽和脂肪酸 1.07 g
一価不飽和 1.53 g
多価不飽和 3.76 g
10.7 g
ビタミン
チアミン (B1)
(0%)
0 mg
リボフラビン (B2)
(0%)
0 mg
ビタミンB6
(0%)
0 mg
葉酸 (B9)
(0%)
0 µg
ビタミンC
(0%)
0 mg
ビタミンE
(2%)
0.3 mg
ビタミンK
(12%)
13 µg
ミネラル
ナトリウム
(17%)
260 mg
カリウム
(0%)
3 mg
カルシウム
(15%)
150 mg
マグネシウム
(8%)
29 mg
リン
(26%)
180 mg
鉄分
(13%)
1.7 mg
亜鉛
(13%)
1.2 mg
マンガン
(49%)
1.02 mg
セレン
(7%)
5 µg
他の成分
水分 79.6 g
β-トコフェロール 0.2 mg
γ-トコフェロール 4.0 mg
δ-トコフェロール 2.2 mg

湯戻し後、煮たもの
%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標 (RDIの割合。

一般的には木綿豆腐を冷凍したものが高野豆腐として広く認知されている。食感は元となった豆腐の製法により異なり、木綿豆腐はスポンジ状に、絹ごし豆腐は湯葉状になる。

凍み豆腐(しみどうふ)と高野豆腐の違いは乾燥方法にある[2]

歴史・名称起源

高野山木食応其によって製法が完成された凍り豆腐(こおりどうふ)が、精進料理の1つとして全国に広まったものとされる[3][4]。また、東北地方にも凍み豆腐(しみどうふ)と呼ばれる同じ製法の保存食があり、こちらは戦国大名伊達政宗が、兵糧研究の末に開発したという伝説がある。中国にも同様の食品があるので中国から伝来した可能性も高い。寒さの厳しい地方では、場所に限らず偶然の産物として発見され、普遍的に生産されてきた食品と見られる。

高野豆腐と呼ばれるに至ったのは、江戸時代において高野山の土産物として珍重されたからとも言われている。江戸時代においては最も流通した物がその販売地、販売者の地名を冠することがあり、これもその1つである。

高野豆腐の名称は現在では全国に広まっているがもとは関西圏で広く用いられていた名称で、甲信越地方・東北地方・北海道では凍み豆腐・凍り豆腐・氷豆腐[5]と呼ばれていた。甲信越・東北・北海道で作られる伝統的な製法の凍り豆腐は、で数個ずつ豆腐を連ねて軒先に吊るして作るので、その形から連豆腐とも呼ばれている。大阪ではちはや豆腐という呼び名もある。古くは氷豆腐と表記されることもあった。

歴史的には製法が異なる「凍み豆腐」系と「高野豆腐」系の2種類が存在していた。これを第二次世界大戦後、凍豆腐組合が統一する呼称として凍り豆腐(こおりどうふ)の名称を作った[2]


記念日

2020年に全国凍豆腐工業協同組合連合会は11月3日を「高野豆腐の日」として制定した。凍り豆腐(高野豆腐)は和食の代表であり、‟日本の食文化の伝承とそのすばらしさを再発見してほしい“、‟おせち料理を食して家族で健康な新年を迎えていただきたい“、との考えから、「文化の日」であり、年内残り58日(コウヤ)である11月3日を記念日とした。


製法

伝統製法では、

凍み豆腐(しみどうふ)
薄く切った豆腐を稲藁であみ軒先に吊す、日中は直射日光を当て溶解させ夜間は寒気に晒す事を繰り返し自然乾燥させる[2]
高野豆腐
日陰で夜間の寒気に数日間晒し、脱水後に火力乾燥させて仕上げる[2]

形状不良となった高野豆腐を粉末にしたものを粉豆腐と呼び、長野県などでは料理に活用されている[6]

近代製法では、衛生管理が行われた屋内の設備により凍結と乾燥が行われ生産される[7][8]

膨軟剤

伝統的な製法による高野豆腐は硬く、水戻しには1晩かかり、柔らかく炊き上げるのは難しく、調理に手間のかかる食材である。このため現在市販されている高野豆腐のほとんどには、水戻しの時間を短縮し、柔らかく煮あがるように膨軟剤と呼ばれる食品添加物が加えられている。

アンモニア

過去に用いられた製法で[2]、極めて吸水性が高いアンモニアの性質を生かし、高野豆腐の水戻し時間を短縮する役割を持つ。乾燥が終わった高野豆腐をアンモニア処理室にいれアンモニアガスを充満させる。スポンジ状の高野豆腐の内部までアンモニアガスが行き渡りアンモニアが全体に吸着したら、密封包装をして出荷される。アンモニアが揮発してしまうと効果がなくなるので、保存時は必ず密封しなければならない。アンモニア臭を抜くために、水ではなく熱湯で戻すことが推奨されている。戻した後、何度か水を替えて完全にアンモニア臭を抜く必要がある。アンモニア自体が有害であること、保存時にアンモニアが揮発すると効果がなくなる[2]

炭酸水素ナトリウム

たんぱく質を分解し食材を柔らかくする炭酸水素ナトリウム(重曹)の性質を利用し、高野豆腐を柔らかくする役割を持つ。生の豆腐を凍結し、炭酸水素ナトリウムの入った水に浸して解凍したのち、水を切り乾燥させる。たんぱく質の一部が破壊されているので水戻しも早く、柔らかく煮あがる。後述の炭酸カリウム製法が開発されるまでは、市販高野豆腐のほとんどが炭酸水素ナトリウム処理されたものであった。

アンモニア処理の高野豆腐と違い密封保存する必要性は無い。また、熱湯で戻す必要もない。

炭酸水素ナトリウム処理された高野豆腐は伝統製法のものに比べ、硬さが1/3 - 1/4程度で非常に柔らかく、別の食品といえるほど食感も異なる。その柔らかさから煮崩れしやすく、伝統製法の高野豆腐と同じ感覚で調理すると形が崩れてしまう。真水で煮ると崩れるので、組織を引き締め煮崩れを防ぐため、はじめから塩分が含まれた出汁で煮る。また、炭酸水素ナトリウム処理された高野豆腐は炊飯器に水と一緒に入れて炊くことによって普通の豆腐に近いものを作ることができる。[9]

炭酸カリウム

高野豆腐の膨軟剤としては、長らく上述の炭酸水素ナトリウムが使用されてきたが、減塩志向の高まりを受けて炭酸カリウムによる製法が開発された(2013年)。炭酸水素ナトリウム処理された高野豆腐と比較して、調理特性はほとんど変化がなく、高血圧などの生活習慣病の原因となるナトリウムが大幅にカットされているうえ、カリウムによるナトリウム排出効果も期待できる。ただし、腎不全など腎臓の機能が衰えてしまっている人はカリウムの摂取が制限されるので、摂取に当たっては主治医に相談するべきである。

調理法

高野豆腐は乾物なので、調理するには水分を含ませて戻す必要があり、高野豆腐の場合には熱湯に浸して戻す湯戻しが必要となる。ただし、近年では湯戻しを必要としないものや電子レンジで調理できるものも市販されている。

保存性

乾物のため保存性は高いが、保存期間が長くなると脂肪分が酸化し品質が劣化する。味を損なわず食べられる期間は6か月程度が限度である。また、多孔質でにおいを吸着しやすいので保存時には注意が必要である。酸化防止とにおい移りを防ぐために、密封容器に入れ冷暗所に保管することが望ましい。

健康機能性

高野豆腐は健康に良い食べ物であることは、長らくは漠然と認識されてきたが、近年の研究によりレジスタントタンパクが多く含まれることが示され、科学的かつ具体的に健康機能性が明らかとなりつつある。

ヒトを対象とした試験において、LDL低下[10]HDL上昇[11]、食後中性脂肪上昇抑制[12]など脂質代謝改善の効果が報告されている。このことから生活習慣病、特に脳卒中心筋梗塞などの予防に効果があるのではないかと考えられている。また、2016年には糖尿病の予防・改善効果があるとする論文[13]が発表され、糖質代謝にも好影響があることが報告された。

脚注

  1. ^ a b 編:文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会 編「4 豆類」『日本食品標準成分表』(2015年版(七訂))、2015年12月25日、56 - 57頁。ISBN 978-4-86458-118-9http://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/detail/__icsFiles/afieldfile/2015/12/24/1365343_1-0204.pdf2016年10月15日閲覧 
  2. ^ a b c d e f 田村正紀、凍豆腐 日本調理科学会誌 1995年 28巻 2号 p.114-122, doi:10.11402/cookeryscience1995.28.2_114
  3. ^ 宮下章: 凍豆腐の歴史, 全国凍豆腐組合連合会編, 1962
  4. ^ 田村正紀「凍豆腐と調理」『調理科学』第3号、一般社団法人日本調理科学会、1985年、142-146頁、doi:10.11402/cookeryscience1968.18.3_142 
  5. ^ コトバンク 凍り豆腐とは(デジタル大辞泉の解説)”. 2017年7月22日閲覧。
  6. ^ なるほど!こうや豆腐の秘密旭松食品
  7. ^ こうや豆腐ができるまで 旭松食品
  8. ^ 酒井宣昭、宮城県岩出山町における凍り豆腐製造業の特性 季刊地理学 2004年 56巻 2号 p.106-109, doi:10.5190/tga.56.106
  9. ^ 伊東家の食卓2001年2月13日放送分より
  10. ^ Drug Discov Ther. 2009; 3(4):143-145.
  11. ^ 石黒貴寛 ほか、「凍り豆腐の長期摂食による脂質代謝改善効果」 Jpn Pharmacol Ther(薬理と治療) 42.(5) 2014:359-362.
  12. ^ 石黒貴寛 ほか、「凍り豆腐の食後中性脂肪上昇抑制効果」 Jpn Pharmacol Ther(薬理と治療) 40.(10) 2012:915-919.
  13. ^ 石黒貴寛 ほか、「凍り豆腐の長期摂取による糖尿病予防・改善効果」 Jpn Pharmacol Ther(薬理と治療)44. (9) 2016:1363-1366.

外部リンク