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自粛警察

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自粛警察(じしゅくけいさつ)とは、2019新型コロナウイルス感染拡大に伴って生じた社会的風潮のひとつで、自粛要請に応じない人を誤った正義感や嫉妬心不安感から攻撃する風潮を指す俗語インターネットスラング[1][2]。「自粛ポリス」ともいう[3]。自粛はあくまでも自分の意思で行うべきものであり、他人の行動に干渉すべきではないはずであるにもかかわらず、他人を密告したり話を広める行為は第2次世界大戦下を連想させるため、ツイッターなどのSNSでは「まるで戦時中の隣組のようだ」と話題になった[4]

概要

2020年(令和2年)、新型コロナウイルスの感染拡大が拡大したが、これに伴い日本ではヨーロッパの国々のように街や地域を封鎖するロックダウンは日本の法律では不可能であるため、政府は国民に外出の自粛の要請を行った。しかし、自分の行動だけではなく、他人の行動にまで過剰な興味を持ち、干渉する一部の人間の行為が問題化した。共同通信によると、民間施設を対象に休業要請が出された大阪府では、府のコールセンターに対し「どこそこの店が営業している」といった内容の通報4月20日までに500件以上もあった。愛知県では、新型コロナウイルスに関する苦情やトラブルなどの110番通報が、4月だけで愛知県警察本部に220件以上(3月の40件と比べ5倍以上)に及んだが、休業要請や外出の自粛に応じていないと指摘する通報が多く、緊急性のないものが主で警察の業務に支障をきたす可能性があった[5]休業要請に店舗などが応じていないとSNSなどで指摘する行為や、外で遊ぶ子供をターゲットにした嫌がらせや通報をする行為、夜間など閉店時にシャッター誹謗中傷の紙を貼りつける行為は、インターネット上で「自粛警察」や「自粛ポリス」などと呼ばれるようになった[4][3][6]。 SNSでの指摘に留まらず、事実無根の情報を拡散させるケースもある[1][6]。「自粛警察」の対象は他県ナンバーの車や電車内で旅行鞄を持ったために旅行者と勘違いされた看護師など医療関係者にまで及び、歪んだ正義感や嫉妬心による「取り締まり」行為への対処は煩雑さを極めた[7][8]

政府は飲食店などに対し「休業要請」はしているものの「強制」ではなく、営業するかどうかの判断は経営者にゆだねられるべきだが、日本では補償金制度が整備されていなかった背景があるため倒産危機に直面した経営者が多い。例えばドイツでは、従業員10人以下の事業所には3カ月で最大約180万円、従業員5人以下の事業所には最大約107万円が給付が早急に支給された。また、新型コロナウイルスの蔓延前からドイツには短時間労働給付金制度があり、雇用者が労働者に対して、まず「労働時間の短縮」を求め、労働時間減少による給与減少分の一部について政府が補償する、といった内容であるが、さらにコロナ禍において弾力的に運用された。日本でコロナ自警団が暗躍する背景に、法整備の不足が指摘されている[4]

水俣病の当初も漁獲禁止ではなく自粛措置が取られた。

攻撃対象の事例

  • 法律で着用を義務付けられていないマスクを着用していないことを批判する[4]
  • 自粛をしなかった、あるいは自粛をしていないと勘違いされた店舗[2]
    • 千葉県八千代市の駄菓子屋では、3月下旬から既に休業しているにも関わらず、何者かが「コドモアツメルナ。オミセシメロ」という貼り紙をした[1]
    • 東京都では、行政からの自粛要請に従って時短営業をしていた居酒屋やライブバーが「この様な事態でまだ営業しますか?」「自粛してください。次発見すれば、警察を呼びます」といった貼り紙をされた[1]。時短営業に協力していても投石でガラスを割られたりした。
  • 旅行者、旅行者と勘違いされた人[8]
  • 帰省[8]
  • 他府県ナンバーの自動車[1]
    • 徳島県では県外ナンバーの車が対して傷をつけられたり、あおり運転をされるなどの被害が相次いだ。
    • 各地で自衛のため「県内在住者です」と書かれたステッカーが売られたり、行政が「県内在住証明書」を発行するような事態まで生じた。しかし、これが却って差別を助長するのではないかとも指摘されている[9]
  • 公園で遊ぶ子供[10]
  • 集まっただけでも警察に通報される。
  • イベントも自粛のはずだが大野埼玉県知事が視察までして自粛を要請。自粛を要請しながら補償はしない責任回避が見え隠れする[11]

違法性

弁護士の本間久雄により、以下の罪に問われる可能性が指摘されている[12]

  • 軽犯罪法1条33号 - 店舗に無断で張り紙をする行為
  • 威力業務妨害罪刑法234条) - 暴言を書いた張り紙により、店舗経営者を心身ともに疲弊させたような場合
  • 強要罪(刑法223条) - 張り紙に生命身体財産等に危害を加える旨の脅迫文言を書いて自粛を迫った場合
  • 侮辱罪(刑法231条) - 侮辱的な表現の張り紙が行われた場合

民事においても張り紙による名誉毀損や営業妨害で客が減少した場合や、店主や店員が精神的苦痛を受けたときは、売上減少の逸失利益慰謝料等について不法行為(民法709条)に基づき損害賠償請求を受けることになる可能性が指摘されている[12]

また、2020年5月3日の記者会見で、菅義偉官房長官はこうした自粛警察と呼ばれる行為に対し、「法令に違反する場合は関係機関で適切に対処したい」と述べている[13]

識者・著名人の反応

  • 評論家真鍋厚は、「為政者が頼んでもいないのに勝手連的に沸き起こった地獄絵図」「市民同士による陰湿な相互監視が幅を利かせ、個々の事情などお構いなしに『同調圧力』という暴力が横行している」と指摘した[14]
  • 社会学者東京都立大学教授の宮台真司は、「自粛警察」の心理について、「非常時に周りと同じ行動を取って安心したい人々だ。いじめと同じで自分と違う行動を取る人に嫉妬心を覚え、不安を解消するために攻撃する」と解説。「人にはそれぞれ事情があり、非常時の最適な行動も人によって違うことを理解しなければならない」と呼び掛けた[15]
  • シンガーソングライターさだまさしは、「自粛警察」のほとんどが匿名であることを「卑怯だと思う」と指摘。一方的な、高圧的な圧力と批難した[16]
  • ダウンタウン松本人志は、「自粛警察」の横行について「想定内よね。こんなん絶対出てくると思ってましたよね」「『自粛警察(の)自粛警察』が出てくる。マウントの取り合い」と指摘した[17]

日本以外の例

日本での自粛要請と異なり、多くの国では非常事態宣言の下で、政府が人の外出を禁止するため、警察は外出している人を強制的に取り締まり、制限を破った人に対し罰金や棒で殴るなどの措置を取る[18][19]

中国

中国では春節の頃に感染者が大量に発生したため、地域によって湖北省から帰省する人を密告することが奨励されたり[20]、帰省者の家を・板などで塞いだりすることが多発していた[21]

韓国

韓国では主に芸能人に対する攻撃が多発する。芸能人は家から外出した写真をSNSにアップすると、批判するコメントが殺到する現象が起きている。例えば、アナウンサー・タレントの朴芝潤は家族旅行の写真をインスタグラムにアップすると、多くの批判コメントが発生した。夫であるKBSアナウンサーの崔東錫に対しても番組降板要請の書き込みが殺到したため、朴は釈明文を掲載し謝罪した。また、歌手のガヒコ・ジヨンも、家族との外出散策の写真をSNSに載せたと、「外出は控えろ!」という批判が殺到してしまった[22]

その他

「自粛警察」は「○○警察」の用法を背景に生じたと考えられるが、ワイドショーなどで「自粛警察」という表現が一般化すると「自分たちの行いが正義だと勘違いさせるのでは」との意見もある[23]

出典

  1. ^ a b c d e “「自粛警察」危うい正義感 強まる圧力「店シメロ」―専門家が警鐘・新型コロナ”. 時事通信. (2020年5月9日). https://www.jiji.com/jc/article?k=2020050900144&g=soc 2020年5月9日閲覧。 
  2. ^ a b “Photo 「自粛警察」の理不尽”. 毎日新聞. (2020年5月9日). https://mainichi.jp/articles/20200509/dde/001/040/030000c 2020年5月9日閲覧。 
  3. ^ a b “自粛警察”で冷静な行動を”. NHK首都圏ニュース (2020年5月9日). 2020年5月9日閲覧。
  4. ^ a b c d e 「マスクをしない女子アナ」に怒るニッポンの自粛警察の危うさ”. 2020年5月15日閲覧。
  5. ^ “休業要請や外出自粛に応じない”110番通報が急増 愛知”. NHK (2020年5月15日). 2020年5月15日閲覧。
  6. ^ a b 「自粛警察」相次ぐ 社会の分断防ぐ冷静な対応を 新型コロナ”. NHKニュース (2020年5月9日). 2020年5月10日閲覧。
  7. ^ コロナストレスで「自粛警察」出没! ネット上で感染者を「公開処刑」、リアルでは“他県ナンバー狩り”も”. 夕刊フジ (2020年5月9日). 2020年5月10日閲覧。
  8. ^ a b c 森原ドンタコス (2020年5月9日). “エスカレートする“自粛警察”。帰省したら町内会長に通報…の怖さ”. 日刊SPA!. https://nikkan-spa.jp/1665581?cx_clicks_art_mdl=1_title 2020年5月9日閲覧。 
  9. ^ “県外車に「在住確認」交付、山形 差別助長と指摘も”. 東京新聞. (2020年5月14日). https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2020051401001326.html 2020年5月15日閲覧。 
  10. ^ “「公園でサッカー」「店が営業」 住民イライラ、警察通報相次ぐ”. SankeiBiz. (2020年5月5日). https://www.sankeibiz.jp/econome/news/200505/eci2005052342002-n1.htm 2020年5月15日閲覧。 
  11. ^ https://www.news24.jp/articles/2020/03/23/07613735.html
  12. ^ a b 営業する店に「バカ」と張り紙…「自粛警察」の暴走、罪に問われる可能性も”. 弁護士ドットコム (2020年5月14日). 2020年5月14日閲覧。
  13. ^ 「自粛警察」法令違反には対処 菅官房長官”. 時事ドットコムニュース (2020年5月13日). 2020年5月14日閲覧。
  14. ^ 「自粛しないと通報するぞ」自警団を買って出る人が怯えているもの”. 講談社現代ビジネス(真鍋 厚) (2020年5月4日). 2020年5月10日閲覧。
  15. ^ 「自粛警察」危うい正義感 強まる圧力「店シメロ」―専門家が警鐘・新型コロナ”. 時事通信 (2020年5月9日). 2020年5月10日閲覧。
  16. ^ さだまさし、自粛警察に「匿名は卑怯」 自身の番組でも「匿名ハガキは読まない」”. デイリースポーツ (2020年5月10日). 2020年5月12日閲覧。
  17. ^ 松本人志「『自粛警察(の)自粛警察』が出てくる」”. 日刊スポーツ (2020年5月10日). 2020年5月10日閲覧。
  18. ^ 飯山, 辰之介 (2020年4月9日). “ルール破れば射殺に殴打、禁錮刑 「緊急事態」めぐるアジアの現実”. 日経ビジネス. 2020年5月11日閲覧。
  19. ^ 大西, 孝弘 (2020年3月27日). “新型コロナで「外出禁止」ならどうなる? 欧州の事例を徹底比較”. 日経ビジネス. 2020年5月11日閲覧。
  20. ^ 赤城街道疫情防控有奖举报 天台县人民政府
  21. ^ 张梦娇 (2020年2月10日). “法治时评:封死居家隔离人员家门于法无据_正义网”. news.jcrb.com. 2020年5月11日閲覧。
  22. ^ 自粛警察、梨泰院クラブ、セレブのSTAY HOME 新型コロナが暴く日米韓の国民性”. Newsweek日本版 (2020年5月9日). 2020年5月11日閲覧。
  23. ^ 「自粛警察」はヒーロー? アニメ系ネットスラングが変化か、一部で誤解も”. イザ! (2020年5月8日). 2020年5月12日閲覧。

関連項目