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ノルウェーの森

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ノルウェーの森
ビートルズ楽曲
収録アルバムラバー・ソウル
英語名Norwegian Wood (This Bird Has Flown)
リリース
  • イギリスの旗 1965年12月3日 (1965-12-03)
  • アメリカ合衆国の旗 1965年12月6日 (1965-12-06)
  • 日本の旗 1966年3月15日 (1966-03-15)
録音
ジャンル
時間
  • 2分4秒 (stereo version)
  • 2分8秒 (monaural version)
  • 1分59秒 ("The Beatles Anthology 2" version)
レーベル
作詞者レノン=マッカートニー
プロデュースジョージ・マーティン
ラバー・ソウル 収録曲
A面
  1. ドライヴ・マイ・カー
  2. ノルウェーの森
  3. ユー・ウォント・シー・ミー
  4. ひとりぼっちのあいつ
  5. 嘘つき女
  6. 愛のことば
  7. ミッシェル
B面
  1. 消えた恋
  2. ガール
  3. 君はいずこへ
  4. イン・マイ・ライフ
  5. ウェイト
  6. 恋をするなら
  7. 浮気娘
ミュージックビデオ
「Norwegian Wood (This Bird Has Flown)」 - YouTube

ノルウェーの森[注 1]英語: Norwegian Wood (This Bird Has Flown))はイギリスロックバンドビートルズの楽曲である。本作は1965年12月3日に発売された6作目のイギリス盤公式オリジナル・アルバムラバー・ソウル』のA面2曲目に収録された楽曲で、クレジットはレノン=マッカートニーとなっているが、主にジョン・レノンによって書かれた楽曲で、一部ポール・マッカートニーによって書かれた。

リード・ヴォーカルおよびアコースティック・ギターはジョン・レノンバッキング・ヴォーカルポール・マッカートニーが担当。本作ではリードギターを担当しているジョージ・ハリスンが演奏するシタールが特徴となっており、レコード化されたポップ・ミュージックで初めてシタールが使用された例とされている。

オーストラリアでは「ひとりぼっちのあいつ」との両A面シングルとして発売され、同国の音楽チャートで2週連続の1位を獲得した[6]

ローリング・ストーンの選ぶオールタイム・グレイテスト・ソング500(2010年版)では83位にランクされている[7]

背景・構成

歌詞は、冒頭で仄めかされているように、ジョン・レノンが当時の妻シンシアに気付かれないように、他の女性と関係を持っていたことを表している。レノン自身が相手の女性について明かしたことはないが、作家のフィリップ・ノーマン英語版はレノンの親友でジャーナリストのモーリーン・クリーヴ英語版、またはサニー・ドレイン英語版のどちらかであると推測している[8]。タイトルについてポール・マッカートニーは、ロンドンで当時流行していた安物の松材を使用した内装を皮肉ったものと説明している[9]

本作は、レノンが1965年1月に当時の妻シンシアとジョージ・マーティンと共にアルプス山脈サンモリッツへ休暇で訪れた際に書きはじめられたもので、翌日に6/8拍子のアコースティック・ナンバーという形でアレンジが決定した。なお、1970年のインタビューでレノンはミドルエイトと最後の「So I lit a fire(だから私は火をつけた)」というフレーズが、マッカートニーによって書かれたものであることを明かした[10]。マッカートニーの解説によれば、最後のフレーズは「風呂で寝ることになってしまった復讐をするために、その場所を燃やしてしまうことにした」とのこと[11]

1965年4月5日から6日にかけて、ビートルズ主演の映画『ヘルプ!4人はアイドル』におけるインドのレストランのシーンをトゥイッケナム・フィルム・スタジオで撮影している際に、ジョージ・ハリスンはインドのミュージシャンが演奏していたシタールに興味を持った[12]。それをきっかけに本作でシタールが導入され、発売されたポップ・ミュージックで初めてシタールが使用された例となった[注 2]。その後ハリスンはシタールに対する興味が増し、シタール奏者のラヴィ・シャンカルに弟子入りしてインドの哲学とシタールを習得し[14]、「ラヴ・ユー・トゥ」や「ウィズイン・ユー・ウィズアウト・ユー」等の楽曲を制作した[15]。また、ビートルズ以降にもローリング・ストーンズ(「黒くぬれ!」)やポール・バターフィールド・ブルース・バンド(「イースト・ウェスト英語版」)などのバンドが、シタールを使用した楽曲を発表した。

レコーディング

『ラバー・ソウル』のレコーディング・セッションの初日にあたる1965年10月12日に、本作の初期バージョンがEMIレコーディング・スタジオで録音された[16][17]。当時の仮タイトルは「This Bird Has Flown」で、リハーサルが行われた後に、2本の12弦アコースティック・ギターベースシンバルという編成リズムトラックが1テイクで録音された[18]。このリズム・トラックに対してハリスンは、シタールのパートを加えた。この時のテイクでは、最終リリース版よりもドローンが強調されたアレンジとなっている[19]。その後レノンによるリード・ボーカルが録音されたが、バンドはアレンジに満足せず、このアレンジは破棄されることとなった。1996年に発売された『ザ・ビートルズ・アンソロジー2』には、破棄されたアレンジ(テイク2)が収録されている[20]

10月21日にキーをニ長調からホ長調に上げ[注 3]、少々激しいアレンジでリメイクを開始した[22]。しかし、アレンジに満足せず、キーはそのままに以前のアレンジを採用した[23]。3テイクの頃にはタイトルが「Norwegian Wood」に変更されていた。

なお、本作のレコーディング・エンジニアであるノーマン・スミスは、シタール録音時にレベルのピークが読めないことから苦労したと語っている[24]

邦題に関する諸説

原題の"Norwegian Wood"が何を意味するか歌詞中に明確に描かれていないため、邦訳には、「ノルウェーの森」や「ノルウェー製の家具」などがある。

大津栄一郎によれば、"wood"という単語は、"the wood"と定冠詞がつく場合以外の単数では森を意味しないという[25]。「森」は語学的におかしく、「ノルウェイ材の部屋」のような訳の方が正しいのではないかとしている。ただし一方で、「ノルウェーの森」の方がタイトルとしてははるかに良いということも述べている。この説はアルバート・ゴールドマンによるジョン・レノンの伝記にも登場する[26]

また、村上春樹は、「ジョージ・ハリスンのマネージメントをしているオフィスに勤めているあるアメリカ人女性から『本人から聞いた話』」として、"Knowing she would"(オレは彼女がそうすると(俗的に言えば「ヤらせてくれる」と)知って(思って)いた)という言葉の語呂合わせとして、"Norwegian Wood"とした、という説を紹介している[27]

「ノルウェーの森」という邦題は、当時東芝音楽工業でビートルズ担当のディレクターだった高嶋弘之が付けた。高嶋は知っている単語で適当に歌詞を訳してから曲を聴き、自分で閃いたところでタイトルを付けていた[28]。ジョージが弾くシタールと、ジョンの靄がかっているような物憂げな声に"wood"なので、なんの疑いもなく「ノルウェーの森」に決めたという[29]

ミキシング

モノラル・ヴァージョンには最初の中間部(0'38")に小さく咳払いが入る。

その他下記の通り3つの定位の異なるミキシングがある。

ヴァージョン ヴォーカル シタール アコースティック・ギター
ラバー・ソウル』収録 右寄り
ラヴ・ソングス』収録 中央(やや右寄り) 左寄り 中央
ビートルズ バラード・ベスト20』収録 中央(やや左寄り) 中央(やや右寄り) 中央

演奏

以下、ウォルター・エヴェレット英語版の書籍を出典としたクレジット[30]

収録盤

カバー・バージョン

参考文献

  • 大津栄一郎「『ノルウェイの森』雑考」『図書』538号、岩波書店、1994年4月。 
  • 村上春樹『村上春樹 雑文集』新潮社、2011年1月31日。ISBN 978-4103534273 
  • Cross, Craig (2005). The Beatles: Day-by-day, Song-by-song, Record-by-record. Iuniverse. ISBN 0595346634 
  • Everett, Walter (1999). The Beatles as Musicians: Revolver Through the Anthrology. Oxford University Press. ISBN 0-19-509553-7 
  • Everett, Walter (2001). The Beatles as Musicians: The Quarry Men Through Rubber Soul. New York, NY: Oxford University Press. ISBN 0-19-514105-9. https://archive.org/details/beatlesasmusicia00ever 
  • Jackson, Andrew (2015). 1965: The Most Revolutionary Year in Music. Thomas Dunne Books. ISBN 978-1-250-05962-8 
  • Kruth, John (2015). This Bird Has Flown: The Enduring Beauty of Rubber Soul, Fifty Years On. Backbeat Books. ISBN 978-1-61713-573-6 
  • Lewisohn, Mark (2005) [1988]. The Complete Beatles Recording Sessions: The Official Story of the Abbey Road Years 1962–1970. London: Bounty Books. ISBN 978-0-7537-2545-0 
  • MacDonald, Ian (2005). Revolution in the Head: The Beatles' Records and the Sixties (Second Revised ed.). London: Pimlico Books at Random House. ISBN 1-84413-828-3 
  • Margotin, Philippe; Guesdon, Jean-Michel (2013). All the Songs: The Story Behind Every Beatles Release. Black Dog & Leventhal. ISBN 978-1-57912-952-1 
  • Miles, Barry (1997). Paul McCartney: Many Years from Now. New York: Henry Holt and Company. ISBN 0-8050-5249-6 
  • Norman, Philip (2008). John Lennon: The Life. Doubleday. ISBN 978-0-385-66100-3 
  • Spitz, Bob (2013). “The British Invasion”. Time. 
  • Unterberger, Richie (2006). The Unreleased Beatles: Music & Film. San Francisco: Backbeat Books. ISBN 978-0-87930-892-6 

脚注

注釈

  1. ^ ノルウェーの森 (ノーウェジアン・ウッド)[4]や「ノーウェジアン・ウッド (ノルウェーの森)[5]と表記されることもある。
  2. ^ ちなみに、ビートルズ以前にはヤードバーズが「Heart Full Of Soul」のレコーディングでシタールを使用している[13]が、リリース時にシタールのパートが除去された。シタールが入ったアレンジは1984年に発表された。
  3. ^ イアン・マクドナルド英語版は、本作はニ長調のコードを中心に構成されていることから、カポタストを使用して録音した可能性と、最終ミックスでテープの回転速度を速めた可能性を提示している[21]

出典

  1. ^ Unterberger, Richie. “Great Moments in Folk Rock: Lists of Author Favorites”. richieunterberger.com. 2018年10月17日閲覧。
  2. ^ Williams, Paul (2002). The Crawdaddy! Book: Writings (and Images) from the Magazine of Rock. Hal Leonard. p. 109. ISBN 0-634-02958-4 
  3. ^ Unquestionably The 50 Best Songs of The Beatles Ever”. Time Out In. Time Out England Limited (2019年5月17日). 2020年4月23日閲覧。
  4. ^ “ザ・ビートルズ、『赤盤』『青盤』がデジタル・リマスターで18日世界同時発売”. BARKS (ジャパンミュージックネットワーク株式会社). (2010年10月13日). https://www.barks.jp/news/?id=1000064814 2020年4月23日閲覧。 
  5. ^ “ザ・ビートルズ、赤盤&青盤が最新リマスターで10月18日発売”. BARKS (ジャパンミュージックネットワーク株式会社). (2010年8月12日). https://www.barks.jp/news/?id=1000063348 2020年4月23日閲覧。 
  6. ^ Australia No. 1 Hits – 1960s”. worldcharts.co.uk. 2013年5月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年4月23日閲覧。
  7. ^ 500 Greatest Songs of All Time”. Rolling Stone. Penske Business Media, LLC. (2011年4月7日). 2020年4月23日閲覧。
  8. ^ Norman 2008, p. 418-19.
  9. ^ Jackson 2015, p. 257.
  10. ^ 100 Greatest Beatles Songs”. Rolling Stone. Penske Business Media, LLC. (2011年9月19日). 2020年4月23日閲覧。
  11. ^ Miles 1997, p. 270-71.
  12. ^ Spitz 2013, p. 108.
  13. ^ 中山康樹『ビートルズの謎』講談社現代新書、2008年、72頁。ISBN 978-4062879705 
  14. ^ Collaborations (Boxed set booklet). Dark Horse Records. 2010. {{cite AV media notes2}}: 不明な引数|artist=は無視されます。(もしかして:|others=) (説明); 引数|ref=harvは不正です。 (説明)
  15. ^ Lavezzoli, Peter (2006). The Dawn of Indian Music in the West. New York, NY: Continuum. p. 175-76. ISBN 0-8264-2819-3 
  16. ^ MacDonald 2005, p. 161-62.
  17. ^ Unterberger 2006, p. 132.
  18. ^ Lewisohn 2005, p. 63.
  19. ^ Kruth 2005, p. 74.
  20. ^ Unterberger, Richie. Anthology 2 - The Beatles|Songs, Reviews, Credits - オールミュージック. 2020年4月23日閲覧。
  21. ^ MacDonald 2005, p. 165.
  22. ^ Lewisohn 2005, p. 65.
  23. ^ Unterberger 2006, p. 132-134.
  24. ^ Margotin & Guesdon 2013, p. 280-281.
  25. ^ 大津 1994, p. 11-15.
  26. ^ 村上 2011, p. 108.
  27. ^ 村上 2011, p. 11.
  28. ^ "スペシャル / ビートルズ来日時を知る初代ディレクター高嶋弘之氏に聞きました!" (Interview). Interviewed by 倉本美津留. ユニバーサルミュージック. 2013年11月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年3月29日閲覧 {{cite interview}}: 不明な引数|program=は無視されます。 (説明)
  29. ^ 「洋楽マン列伝 vol.101 高嶋弘之氏(中編)」『レコード・コレクターズ』、ミュージックマガジン、2018年9月、167頁。 
  30. ^ Everett 2001, p. 314.