ちまき
ちまき(粽、中国語: 粽 または 粽子、拼音: ツォン または zòngzi ツォンズ)は、もち米やうるち米、米粉などで作った餅、もしくはもち米を、三角形(または円錐形)に作り、ササなどの「ちまきの葉」(中国語: 粽葉; 拼音: zòngyè)で包み、イグサなどで縛った食品。葉ごと蒸したり茹でて加熱し、その葉を剥いて食べる。
名称
後漢(2世紀)の『説文解字』は、「粽」の本字「糉」の字義を「蘆葉裹米也」(蘆(あし)の葉で米を包む也)と記している。この字の旁には「集める」という意味があり、米を寄せ集めたものがちまきという事になる。「粽」は旁を同音の簡単な部品に置き換えた略字である。
日本ではもともとササではなくチガヤの葉で巻いて作られたことから、ちまき(茅巻き)と呼ばれるようになった。
中国大陸のちまき
中国において、ちまきは水分を吸わせたもち米を直接葦の葉で包み、茹でる、もしくは蒸す方法で加熱して作る方法が主流である。材料の米にはもち米のみを用いることが多い[1]。米と一緒に、味付けした肉、塩漬け卵、棗(なつめ)、栗などの具や、小豆餡などを加えることが多い。特別なものでは、アワビやチャーシューを包んだものもある。形は正四面体が多いが、直方体、円筒形のものもある。中国北部では甘いちまき、南部では塩辛い味のちまきが好まれるが、そうした違いは南北との交流が盛んになった現在では少なくなってきている。
吉林省、遼寧省、内モンゴル、天津市、山東省、上海市、江蘇省、江西省、広東省、福建省などの地域では端午節にちまき(粽子)を食べる習慣がある[1]。
歴史(中国)
中国の伝説では、楚の愛国者だった政治家で詩人の屈原が、汨羅江(べきらこう)で5月5日に入水自殺した。民衆はこれを悼んで、毎年の5月5日には、供物を汨羅の淵に投げ入れて供養をした。しかし、供物は悪い竜に食べられてしまう。それで供物を竜が苦手だという楝樹の葉でくるみ、魔除けの五色の糸で縛って、川に投げ入れたのが起源とされる[2][3] 。このため、中国などで5月5日の端午の節句に食べる習慣がある。
実際の考証でも、2000年あまり前の戦国時代には出現していたと考えられる。西晋(3世紀)の周処は『周処風土記』に「仲夏端午、烹鶩角黍。」(夏の端午の節句に鶩角黍を調理する)と記しており、粽のことと考えられる。
種類(中国)
- 肉粽(にくちまき)
- もち米と一緒に豚肉やタケノコ、シイタケなどに甘辛く味付けしたものを、竹の皮で正四面体状に巻いてイグサで縛り、蒸し上げた料理は「肉粽」(ロウツォン、ròuzòng)と現地で呼ばれるが、日本では「中華ちまき」とも呼ばれる。
- 豆沙粽(小豆餡のちまき)
- こし餡をもち米で包み、竹の葉で包んで蒸すか煮て作る。甘い。
- 白米粽子(もち米のちまき)
- 具材を一切入れず、もち米だけを蒸して作る。食べるときに砂糖をまぶす。
- 糯米鶏(広東語 ノーマイカイ no6mai5gai1、北京語 ヌオミージー nuòmǐjī)
- 広東料理の点心の一種。もち米と鶏肉、シイタケなどをハスの葉で長方形に包んで蒸した料理。広州などでは弁当の一種としても売られている。
- 真空パックのちまき
- 包装形態の違いでしかないが、肉粽や豆沙粽などを真空パックに入れ、電子レンジなどで再加熱して食べる商品が売られている。
- チワン族のちまき
- 日本の「あくまき」に似た円筒形のものを作るが、サイズは最大40センチメートル程度の巨大なものまであり、「枕」や「ラクダのこぶ」を連想させる。米に食紅で着色することも多い。
- ヤオ族のちまき
- チワン族と同様で、円筒形の枕状のものが普通。他に、赤砂糖や落花生の餡を包んだ甘いものもある。
- シェ族のちまき
- 肉やナツメを笹で包み、四角いちまきを作る。加熱は灰を加えた湯で煮て行う。
- トン族のちまき
- 灰を用いて作り、日本のあくまきに近い。
- タイ族のちまき
- ちまき祭りともいわれる歌垣の場で、若い男性から女性に贈るものとして用意する。
日本のちまき
歴史
承平年間(931年 - 938年)に編纂された『倭名類聚鈔』には「和名知萬木」という名で項目があり、もち米を植物の葉で包み、これを灰汁で煮込むという製法が記載されている[4]。元々は灰汁の持つ殺菌力や防腐性を用いた保存食であった。その後、各地で改良や簡略化が行われ、京では餅の中に餡を包み込んだり、餅を葛餅に替えるなど独自の物も出来て来た。
ちまきは柏餅と並ぶ端午の節句の供物として用いられる[1]。ちまきは地方によって形や中身が異なる。2018年のウェザーニュースが実施したちまきに関する調査によると、北海道から関東甲信越、九州の一部では中身がおこわ、東海から九州では中身が甘い団子との回答が多数を占めた。 奈良時代に中国から端午の節句の風習の一環でちまきが伝来。平城宮のあった近畿地方には白い団子のちまきが根付いた。一方で、関東地方には、この風習は根付かず、柏餅を食べることが多い[5]。
『伊勢物語』(五十二段)、「人のもとより飾り粽 おこせたりける返事に、菖蒲(しょうぶ)刈り 君は沼にぞまどひける 我は野に出でてかるぞ わびしき」とあり、昔は菖蒲の葉も用いたようである。
種類
日本ではもち米だけでなくうるち米も用いられる[1]。包むのに使う葉はチガヤ、笹、竹の皮、ワラなど様様である。
江戸時代、1697年(元禄10年)に刊行された本草書『本朝食鑑』には4種類のちまきが紹介されている。
- 蒸らした米をつき、餅にしてマコモの葉で包んでイグサで縛り、湯で煮たもの。クチナシの汁で餅を染める場合もある。
- うるち米の団子を笹の葉で包んだもの。御所粽(ごしょちまき)、内裏粽(だいりちまき)とも呼ぶ。
- もち米の餅をワラで包んだ餡粽(あんちまき)。
- サザンカの根を焼いて作った灰汁でもち米を湿らせ、これを原料に餅を作りワラで包んだ物。朝比奈粽(あさひなちまき)と呼ばれ、駿河国朝比奈の名物というが、これはもう作られていない。
このうち、1は新潟県の「三角ちまき」など現在でもよく作られるちまきである。うるち米の粉で餅を作った後、これをササの葉やマコモの葉で包む。これを茹でるか蒸籠で蒸らして作る。そのままか、もしくは4に準じた食べ方をしている。
2は現在の和菓子屋で作られる和菓子のちまきの原型であり、現在の餅の原料は葛に代わっている。端午の節句に作る店が多い。
3の飴粽(糖粽とも書く)は、餅が飴色になっているため、この名があるという。詳細は糖粽売の項目を参照。
4は、灰汁(あく)による保存と品質維持を期待した保存食の一種。きな粉や砂糖を混ぜた醤油で食べる。
このほか、新潟県で笹団子と呼ばれる、笹で包んで両端をワラで結んだ形状のものも茨城県常陸太田市ではちまきと呼び、名物となっている。また、ちまきとは呼ばず端午の節句とも無関係であるが、月桃の葉で包んだムーチーと呼ばれる類似の菓子が沖縄にある。
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和菓子のちまき
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三角ちまき
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日本画に描かれたちまき(呉春)
厄除けのちまき
京都の祇園祭では粽(ちまき)が厄除けの縁起物となっている[6]。これは厄除けの縁起物で食べるためのものではない[6](中身も葉のみである)。もともとは山鉾巡行の際に山鉾から撒れていたものが、今は宵山の際に祭会所で販売されている[6]。蘇民将来信仰の茅の輪に起源があるとされる。
滋賀県の大津祭では現在も曳山の上から撒かれる。一本ずつではなく十本を一纏めにしたものを一把と言い、一把ずつ配布したり、撒いたりする。かつては、そのまま撒いたりしていたが、近年では袴や巻紙などと呼ばれる山鉾名や曳山名の書かれた紙を巻いたり、お守りや鈴などをつけたりしている。(かつては和菓子のちまきも「上ちまき」と称して撒いていた。「上ちまき」は一本ずつ撒かれていた。)
台湾のちまき
南北で多少異なり、それぞれ「南部粽」、「北部粽」と呼ばれる。この他に、「客家粽」と呼ばれるもの、「鹸水粽」、「鹸粽」とよばれるあくまきなどがある。
- 北部粽
- 生の米を水に浸しておき、水を切ってから五香粉、胡椒、醤油などを加えて調味し、米を蒸すか炒める。ある程度火が通った状態で、肉などとともに竹の皮で包み、しっかり蒸す。
- 南部粽
- 生のもち米を水に浸し、豚肉、シイタケ、塩漬けアヒルの卵黄、エシャロット、落花生、栗、切り干し大根などの具とともに竹の葉に包んで、鍋で煮る。
- 客家粽
- 南部粽と同じようなものを蒸して作る「米粽」の他、「粄棕」と称するモチ米を水に浸しておいてから石臼で擂り、容器の底にたまった米粉を団子にして、切り干し大根や調味料とともに竹の葉で包んで蒸すものがある。
- アバイ
- 南東部に住む原住民のルカイ族、パイワン族、プユマ族などは、アワ、タロイモ、モチ米などを用いムラサキ科のトリコデスマ・カリコスム(Trichodesma calycosum var. formosanum。假酸漿)の葉とゲットウの葉で包んだちまきを食べる習慣がある。
1989年の旧暦端午の節句に、台湾彰化県では重さ350キログラムもの巨大ちまきが作られたことがある。
東南アジアのちまき
シンガポール、マレーシアのちまき
シンガポール、マレーシアは福建系の移民の子孫が多いためか、これらの国のちまきは基本的に中国福建式の肉粽(Bak Chang)が主流である。豚の角煮、しいたけ、栗、干しエビなどを具とし、醤油、塩、砂糖、五香粉、白胡椒などで味付けをしている。地域が変わるとピーナツや豆が具に加わることもある。また、中国とマレー文化の融合したニョニャのちまきとして「娘惹粽(Nyonya Chang)」とも呼ばれるものもあり、これは豚肉の具にコリアンダーのスパイス、冬瓜の砂糖漬けなど加えてやや甘めの味付けがされる。また、餅米にカンスイを加えて味付けをせずに蒸した碱水粽(Kee Chang)というミニサイズの粽もある。これはデザートとして椰子糖のシロップや、カヤ(ココナッツミルクと卵で作ったジャム)を添えて食べる。
インドネシア、タイのちまき
インドネシア、タイのちまきも基本的に中国系の国民が作るが、主に福建料理風であり、名称も閩南語のbah-chàng(バーツァン、漢字では「肉粽」)からの借用語でバッチャン/バチャン(インドネシア語: Bakcang/Bacang)、バチャーン(タイ語: บะจ่าง)と呼ばれる。脂身の多い豚肉、落花生などを煮て包んだ甘辛い味である。
脚注
関連項目
外部リンク
- ちまき - コトバンク
- ちまき - 旬の食材・健康レシピ
- 各国で違いがあるって知ってた?「ちまき」の魅力を再発見! - macaroni
- 美味求真.com「粽」