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カニバリズム

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1557年ブラジルで行なわれたカニバリズム

カニバリズム(Cannibalism)とは、人間を食べる行動、或いは宗教儀礼としてのそのような習慣をいう。食人または人肉嗜食とも言う。

スペイン語のCanibalが語源。Canib-はカリブ族の事を指しており、当時スペイン人には、西インド諸島に住む彼らは人肉を食べると信じられていた。その為この言葉には「西洋キリスト教の倫理観から外れた食人の風習」=「食人嗜好」を示す意味合いが強い。
日本ではしばしば謝肉祭を表すカーニバル(carnival)と混同されるが、こちらはラテン語で「肉」を表すcarnを語源に持つ(カーネーションも「肉の色の花」が語源であるといわれるが諸説あり)。


習慣としてのカニバリズムは、大きく以下の2種類に大別される。

  1. 社会的行為としてのカニバリズム
  2. 単純に人肉を食うという意味合いでのカニバリズム


社会的行為としてのカニバリズム

特定の社会に於いて、対象の肉を摂取する事により、自らに特別な効果または栄誉が得られると信じられている場合がある。しばしばその社会の宗教観、特にトーテミズムと密接に関係しており、食文化と言うよりも文化人類学民俗学に属する議題である。

自分の仲間を食べる族内食人と、自分達の敵を食べる族外食人に大別される。族内食人の場合には、死者への愛着から魂を受け継ぐという儀式的意味合いがあると指摘され、族外食人の場合には、復讐等憎悪の感情が込められると指摘される。日本の九州地方に残る骨噛みは前者の意味合いを含む風習と考えられる。 また新約聖書中に於けるイエス・キリストの聖餐は、人肉食の暗喩であると取る見方もある。 中世ヨーロッパではキリスト教以前の風習として、死者の血肉が強壮剤や媚薬になると信じられており、その一環としてカニバリズムを行った事もある。 人身供養と考えるか、葬制の一部と見るのかによって意味合いが変わってくるが、社会的な行為と考えられる。ニューギニアの一部族に流行していたクールーと呼ばれる人のプリオン病は、族内食人が原因であった事が判っている。

なお、タンパク質の供給源が不足している(していた)地域では、人肉食の風習を持つ傾向が高いという説がある。実際、人肉食が広い範囲で見られたニューギニアは他の地域と比べなどの家畜の伝播が遅く、それを補うような大型野生動物も生息していなかった。

社会的行為ではないカニバリズム

ファイル:Goya-Saturnus.png
カニバリズムを扱った絵画
ゴヤ画:わが子を食うサトゥルヌス

社会的行為ではなく純粋な人肉嗜好の場合もある。人肉は豚肉のようで、他の動物の肉よりも美味であるという俗説がある。それを信じ豚肉食を禁忌としている宗教もある。戦後の日本の闇市でも、人肉は豚肉の味がするという噂が流れていた。俗説とされているが、豚と人体は組成が似ている点と他の草食性の家畜類に比べ豚は雑食性であり食べるものが人間に近い点は、この説の裏付けとなるだろう。

  1. 緊急事態下における人肉嗜食
  2. 特殊な心理状態での殺人に時折見られる人肉捕食等

上記は厳密にはカニバリズムには含まれないが、常習化すればカニバリズムと捉える事が出来る。これは上記1.2.の中間、若しくは両方を備えた状態であると言える。

文明社会に於いては、直接殺人を犯さずとも死体損壊等の罪に問われる内容であり、それ以前に、倫理的な面からも容認されない行為タブーである食のタブーとされる。そしてタブーとされるが故に、それを扱った文学・芸術は多く見られる。

性的なカニバリズム

カニバリズムはしばしば性的な幻想をもって受け止められ、またそのようなフェティシズムを持つ者も多数存在する。彼らは大抵、その幻想の達成は実現不可能な事だと認識していて、現実に達成することはあまりない。しかし、その幻想を達成してしまい、実際に性的なカニバリズムを行った極端な例も存在する。たとえば、連続殺人者であるアルバート・フィッシュエド・ゲインジェフリー・ダーマーフリッツ・ハールマンアンドレイ・チカチーロ、フィクションならば青頭巾スウィーニー・トッドSweeney Todd)、ハンニバル・レクターなどである。

また、別の例としてよく知られた事件はパリ人肉事件(後述)で犯人の佐川一政は自著の書籍において、女生徒の肉を「まったり」と「おいしい」と記述し被害者に憎しみは無く憧れの対象であり、事件時の精神状態は性的幻想の中にあったと記述している。

また、別の事件としてアルミン・マイヴェスのケースがある。彼はカニバリズムを扱うニュースグループにて自分に食べてもらいたい男性を募集し、それに応じてきた男性を殺害し、遺体を食べている。

日本のカニバリズム

日本でも人肉食は禁忌とされるが、伝説酒呑童子説話中の源頼光一行や、安達原の鬼婆の家に立ち寄った旅人等説話にカニバリズムが散見される。「遠野物語拾遺」第二九六話と第二九九話には、遠野町で5月5日に薄(すすきもち)を、7月7日に筋太の素麺を食べる習慣の由来として、死んだ愛妻の肉と筋を食べた男の話が記録されている。江戸の獄門で処刑された死体で日本刀の試し切りを職とした山田浅右衛門が死体から採取した肝臓を軒先に吊るして乾燥し薬として販売したとされる他、戊辰戦争の折には薩摩藩の兵が死体から肝臓を取り食用にしたという説を信じる者も居た。

確実な記録には江戸四大飢饉の時に人肉を食べたというものがある。明治以降は、明治3年に刑部省弁官布告にて人体各部の密売を禁じた公文書が残っている。また、太平洋戦争中に起こった人肉食事件(通称ひかりごけ事件)は日本中を揺るがす大問題に発展した。

また太平洋戦線の島嶼等で日本軍は各地で補給が途絶したため、戦死した兵士の死体や落伍した兵士を密かに殺すなどしてその肉を奪い合って食べる事態が頻発し、軍上層部でも問題となった。これに対し、1944年12月にニューギニア戦線の日本軍第十八軍は「友軍兵の屍肉を食す事を罰する」とし、これに反した4名が処刑されたが、この布告は餓死寸前の末端兵士たちにはむしろ生存手段としての人肉食を示唆することになった(敵軍の死体は食べても罰するという記述は無く、フィリピンミンダナオ島では非戦闘員を含む住民が日本兵に殺害され、食べられるという事件が起こっている)。主に日本軍による人肉食が発生した戦場はインパール・ニューギニア・フィリピン・ガダルカナルなどである。日本軍による連合軍兵士に対する人肉食は、多くが飢餓による緊急避難であったことや、人肉食に遭った兵士の遺族に対する感情などを考慮した結果、その多くは戦犯として裁かれることはなかった。

1981年フランスで日本人留学生であった佐川一政が知人女性を殺しその肉を食べたパリ猟奇事件(「パリ人肉食事件」とも)が起こる。当時学生であった佐川は25歳のオランダ人留学生の女生徒を殺害し、食べていた事が報道され世界中を震撼させた。その後、フランスの裁判で彼は精神異常状態であったという理由から、無罪を勝ち取り帰国する。この公判は不当であったという評価を受けていて、また彼は自分の書籍中で自分の父が判事を買収したと言及している。この事件は彼を有名にし、彼の書いた小説は大ヒットをする。また、一時期はコメンテーターとしても活躍した。

なお、お骨を食べる社会文化的儀礼としてのカニバリズムは全国に広く残っている。

中国文化のカニバリズム

中国では近年まで人肉食は禁忌でなかった』との主張があり、それによれば19世紀(の時代)まで処刑された者の人肉を漢方薬としていたという記録や写真があるという。また、代の人肉食や孔子が加工された人肉を食べていた伝承或るいは歴史書等も根拠とされている。また、小説でも中国四大奇書である西遊記の人肉饅頭や水滸伝の人肉食の記述がある。また、三国志演義には「劉備曹操に追われてある家に匿われた時に、その家の主人が劉備に献上する食料がなく妻を殺害し、その妻の肉を劉備に献上しそれに感動した劉備はその後その家の主人を高官にした。」との記述があり吉川英治著の三国志でこの記述の際には、中国の人食文化に付いて触れている。また、史記にも飢饉や戦争により食料が無くなると自分の子供と他人の子供を交換し、交換した子供を絞め殺して食べたという記述が残っている。 さらに、病気の夫などに、妻の腿の肉を食べさせるという風習もあったらしい。

北宋代の料理書には両脚羊と言う人間料理の項目があり、人肉市場が存在したと言われている。両脚羊とは二本足の羊という意味で、食用人間の事を指す。 また、文化大革命時に於いても粛清と言う名目で人肉食が広西等で白昼堂々と行われていたと言う報告があるが真偽は定かではない。

また、中国の影響を強く受けている朝鮮半島に於いても食人文化は見られ、「断指」「割股」と言う形で統一新羅時代から李氏朝鮮時代まで続いている。孝行と言う形以外で直接的に人肉を薬にする事に付いては比較的遅くに見られ、李氏朝鮮の中宗21年の数年前(1520年代)から広まっており、宣祖9年6月(1575年)には生きた人間を殺し生肝を取り出して売りさばいた罪で多数捕縛された事が朝鮮王朝実録に記載されている。この民俗医療の風習は、元々梅毒の治療の為に行われたと推察できるが、後にこれらの病に留まらず不治の病全般に行われる様になり、朝鮮総督府時代の昭和初期に至っても朝鮮・日本の新聞の記事の中にも長患いの夫に自分の子供を殺して生肝を食べさせる事件やハンセン氏病を治す為に子供を山に連れて行き殺し、生肝を抜くと言う行為が散見される。

家畜のカニバリズム

肉食の習慣や、所謂「共食い」とは違うが、の「齧り」や「齧り」・の「突き」等、群れで飼育する家畜家禽に於いて、傷付いたり弱ったりした個体を(口を使って)集団で攻撃し、結果として死に至らしめる行動も畜産学動物行動学上ではカニバリズムと呼ばれている。これらの行動は環境探索本能の転嫁と密飼いによるストレスが原因と言われており、遊具等の投入による欲求不満の解消や飼育密度の低減によってある程度の抑制が可能である。また近年では畜産物残渣の再利用という名目で肉骨粉等を飼料に混ぜる事もあり、家畜が家畜を認識しない内に人為的カニバリズムをさせられる形となり、BSE狂牛病)という感染症を発生させる結果となった。

自然界でのカニバリズム 

cannibalismを動物が同種の他個体を食べる共食い(種内捕食:intraspecies predation)の訳語としてとる場合、共食いはアリシロアリ等の社会性昆虫では頻繁に見られ、食料欠乏の場合には、幼虫成虫を捕食する(飢餓状態に置かれれば、チョウの幼虫などの草食動物も共食いをする)。繁殖のためではなく、幼生栄養を補給する目的で無精卵栄養卵 [[::en::Trophic_egg|Trophic Egg]] と呼ばれる)を産む行動は、カエル、ハキリアリ[[::en::Atta_sexdens|Atta sexdens]])、クモなどに見られる。無脊椎動物魚類など、成体と幼生(あるいは大きさの著しく異なる雄と雌)が同じ地域(同じ生物群集内)に生息する雑食動物肉食動物の間では、食物ピラミッドの中では小さな個体が大きな個体の下に位置するため、カニバリズムが頻繁に起こりうる。そのような場合、カニバリズムが個体群数の周期的変動につながる例も多い。

カニバリズムは無脊椎動物魚類両生類だけではなく鳥類哺乳類等の高等動物にも見られる行動であり、チンパンジーの子殺しに伴う共食い等のように霊長類も例外ではない。自然状態での家畜とは異なるストレス以外のカニバリズムの理由としては、としての価値に重点がある場合と同種個体を殺す事に重点がある場合、その両方を兼ねる場合があるが、チンパンジーの例ではその意義が未だよく解明されていない。

カニバリズムを扱った作品

  • 倫理や人種差別などの問題により、現在では該当部分が単行本やDVDなどで修正が施されたり未収録になっているものもある。

映画

小説

ノンフィクション

漫画

一部の回のみ取り扱っている場合が多い。

アニメ

ゲーム

関連書

  • 『ヒトはなぜヒトを食べたか―生態人類学から見た文化の起源』 マーヴィン ハリス (Marvin Harris)、鈴木洋一 訳 ハヤカワ文庫 ハヤカワ・ノンフィクション文庫 早川書房 ISBN 4150502102
  • 『図説 食人全書』マルタン モネスティエ (Martin Monestier)、大塚宏子 訳 原書房 ISBN 4562033991

関連項目

外部リンク