風魔
風魔(風摩、風間、風广/かざま、ふうま)は、天正年間に北条氏直に仕えて活動した乱波(忍者)の集団、ないしそれを率いた人物。主家の滅亡後は江戸近辺で盗賊となり、密告によって一網打尽にされたと伝えられている。確実な史料においては全て「風間」と記されており、「風魔」「風摩」と記したものは見られない[1]。
概要
三浦浄心が著した寛永18年(1641年)刊の『北条五代記』によれば、天正年間の風摩の一党は、山賊、海賊、強盗、窃盗の四隊、合計二百人から成っていた。風摩の一党は、敵陣に忍び込んで、人を生け捕りにし、繋ぎ馬の綱を切ってその馬に乗り、夜討ちをかけた。そのうえ、ここかしこに放火し、四方八方に紛れ込んで、勝ち鬨をあげるので、敵方はさんざん動揺した。頭目の風摩(かざま)なる人物は、武田軍の兵士は、風摩が「身の丈七尺二寸(2m16cm)、筋骨荒々しくむらこぶあり、眼口ひろく逆け黒ひげ、牙四つ外に現れ、頭は福禄寿に似て鼻高し」という、異様な風貌をしていると噂したという[2]。
同じ三浦浄心の著で『慶長見聞集』によれば、後北条氏滅亡後、向崎甚内が「盗賊となって江戸近辺を荒らしまわっているのは風魔の残党・子孫だ」と密告し、江戸の奉行所によって盗賊が根絶やしにされたという。しかし、向崎甚内も盗賊であることがわかり、慶長18年に処刑された。この件について、戸部新十郎の『忍者と盗賊』などでは、風魔小太郎が捕縛・処刑されたと書かれている[3]。
嘉永3年(1850年)刊の『武江年表』の天正18年(1590年)の記事でも上述の開設をしているが、『武江年表』の改訂作業を行った江戸時代後期の考証家喜多村信節は、「乱破」は徒党の名称、「風魔」はその中の一人の名前だと補説している。[4]
18世紀前半に成立した槇島昭武の『北越軍談』には、弘治3年(1557年)頃の出来事として、小田原の風間次郎太郎から幻術を学んだ鳶加藤なる幻術師が越後の長尾景虎のもとに現れたという話が載っている[5]。同じ槇島昭武の著した『関八州古戦録』によれば、天文15年(1546年)あるいは天文12年(1543年)に関東管領の上杉憲政が川越城に攻めよせた時、北条氏康配下の小田原方の忍びである二曲輪猪助が斥候として差し向けられた。この二曲輪猪助は「風間小太郎が指南を得たる(風間小太郎から指導を受けた)」とある[6]。
その根拠地は相模国足柄下郡の風祭の近くにある「風間村」ないし「風間谷」という場所であるとする説がある[7]。
なお、17世紀前半に成立した『北条記』には、北条方の忍びの上手として、北条氏照配下の横江忠兵衛と大橋山城守の名前が挙がっている。
風間出羽守
後北条氏のいくつかの発給文書には、「風間出羽守」「風間」なる人名がみえ、岩付城の警備を担当するなどしていたことが知られている。元亀3年(1572年)5月7日付けで、後北条氏は岩井弥右衛門尉らに対して風間某が7月まで6ヶ村に逗留する予定として宿以下の用意を命じ、不法があれば小田原城に訴えるように命じた。元亀4年(1573年)には、後北条氏は、百姓からの訴えを受けて、以後、風間某を武蔵国の「すな原」に在宿させないことにした。この他に、天正年間に北条氏政が十郎氏房にあてたとみられる書状に岩付城の夜間警備を命じられているらしき「風間」の名前がみえたり、天正10年(1582年)9月13日付けの「風間出羽守」あての北条氏政書状で、風間は氏政から信濃国と遠江国の戦況を知らせられた上で、示し合わせて出陣するよう命じられたりしている。また、風間出羽守の嫡男に雨宮主水正という者がおり、岩付城下の妙円寺(埼玉県さいたま市岩槻区黒谷)を開基したという。
風魔小太郎
『関八州古戦録』に言及のある「風間小太郎(風魔小太郎)」は、前述のとおり二曲輪猪助の師として名が挙げられている人物に過ぎないが、近年は専ら小太郎こそ忍者集団「風魔」一党の頭目であると解釈されることが多い[8]。すなわち『北条五代記』における乱破の頭目「風摩」こそ風魔小太郎であり、慶長年間に徳川氏によって群盗が一掃された際に処刑されたとされる[9]。相模国足柄下郡の出身で、本当は風間姓だが代々の頭目が風魔小太郎を名乗ったとされ、有名な小太郎はその5代目とする[10]。
いずれも20世紀以降に発生した俗説に過ぎないが、2013年5月3日に行われた小田原北條五代祭りにおいて、市観光協会が主催する天下一忍者決定戦の勝者に「六代目 風魔小太郎」の栄誉が与えられ話題となった。
脚注
参考文献
- 下山治久『後北条氏家臣団人名辞典』東京堂出版、2006年9月、752頁、ISBN 978-4490106961
関連作品
主題作品
- 白石実三「妖盗風摩小太郎」『武蔵野から大東京へ』
- 海音寺潮五郎『風魔一族』
- 南条三郎『美女決闘』
- 光瀬龍『夕ばえ作戦』 - 敵は風魔小太郎率いる風魔忍者。
- 松枝蔵人『瑠璃丸伝 当世しのび草紙』 - 主人公 瑠璃丸は風魔の現頭領。当作品において風魔は、伊賀や甲賀等忍びの一族のまとめ役として描かれた。
- 富樫倫太郎『早雲の軍配者』 - 第32回吉川英治文学新人賞候補作。
モチーフ作品
- 漫画
- 白土三平『忍者旋風』『真田剣流』『風魔』 - 風魔小太郎及び彼の率いる風魔一族を主役とする三部作。
- 車田正美『風魔の小次郎』
- 鎌谷悠希『隠の王』 - 忍の五大勢力の一派として。
- 尼子騒兵衛『落第忍者乱太郎』 - 主人公・猪名寺乱太郎の同級生である山村喜三太は、風魔流忍術学校からの転校生という設定になっている。
- 唐々煙『曇天に笑う』
- 映像
- 隠密剣士第5部・第6部
- スケバン刑事III 少女忍法帖伝奇 - 主人公風間三姉妹をはじめ、般若ら暗闇機関の忍者が風魔の一党。
- 忍者キャプター - 敵は風魔烈風率いる忍軍。主人公、出雲大介は風魔忍軍の抜け忍。
- カッ飛び!ヤンヤン姫 - ヤン姫の敵は風魔(第4話から)。
- ルパン三世 風魔一族の陰謀 - 墨縄一族が残した財宝を四百年もの間狙っていた風魔一党が、その財宝を巡って墨縄家の末裔と行動を共にしたルパン一味と死闘を繰り広げる。
- ルパン三世 the Last Job - 上記の「風魔一族の陰謀」とは別の風魔一党が登場。関係は語られていない。