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ノルマ

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ノルマロシア語: Норма, ラテン文字転写Norma)とは、個人や団体に対して国家や組織が強制的に割り当てた労働の目標量であり、多くの場合は労働の成果のみならず時間的な制限も付加される。

概要

第二次大戦後、当時のソビエト連邦によりシベリアに抑留されていた人たちが帰国した際に日本に広まった言葉[1]

会社の売上を一定以上確保する、特定の日までに一定量を製造・生産する、競合他社との競争に勝つ、などといった目的を達成するために、経営者などが労働者にノルマを課す。労働者にノルマを達成させる意欲を高めさせるために、労働者に対しノルマ達成のインセンティブ(報奨金、昇進、昇給、海外旅行など高額商品の授与)を用意し、未達成の場合はペナルティ(粛清、暗殺、逮捕、解雇、減給、左遷、暴力・暴言など)を与える場合もある。

法律上のノルマ

労働契約を結ぶことによって課される労働者義務は「労働に従事すること」(民法 第623条)と、労働力の提供だけに限定されており、「結果を出すこと」は義務ではない。結果を出す義務は組織の経営戦略を決定し労働者を取り仕切る取締役管理監督者などにある。

ノルマ未達成でペナルティを課すことについて、賃金が減額される場合労働基準法第16条違反の違法行為であり。ペナルティが設定された契約条項は無効となり、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる(労働基準法 第119条第1号)。『みせしめ』としての側面が強いなど合理性のある措置とは言えず、その程度がひどければ違法性を帯びて慰謝料の支払義務が発生する余地もありえる民法の不法行為。違法な営業活動や自爆営業を暗に示すなど、場合によっては強要罪刑法 第223条)に該当する[2][3]

勤務中に立ち寄った場所で営業活動するに当たっても特定商取引に関する法律が適用される。業務上知り得た個人情報を利用目的以外の営業などに転用する行為は個人情報の保護に関する法律に違反する[4][5]

会社に指定された勤務時間外に営業活動を行う場合であっても、営業ノルマがきつい場合などで所定労働時間を超えて労働することが通常必要な場合は労働基準法に定められた勤務時間みなし労働時間制#事業場外労働(労働基準法 38条)に該当する場合もある[6][7]

東芝では「チャレンジ」と称した、過大なノルマによる経営戦略を据えたことが、粉飾決算の原因となり、東芝の株主から株主代表訴訟を起こされる事態となった。

また、日本郵政グループにおいては、以下の2点において「苛烈なノルマ」が問題となった。

  • 旧郵政公社時代から続いているとされる記念切手やカタログ商品などの「自爆営業」、「年賀状の販売個人ノルマ達成の為に自分で使用する分以上を購入し余剰分を遠方の金券ショップで売却」という行為が横行し管理者もその行為を強要していた。年賀状の自爆営業や金券ショップ売却が問題になった2013年から日本郵便では管理者や上司による強要や金券ショップの転売を禁止し、2018年からはさらに社員の年賀状の個人販売目標を廃止するようにはなっている。
  • 2019年にかんぽ生命保険とその個人チャネルである日本郵便の高齢者を狙った不正な契約の付け替え行為。またゆうちょ銀行や同様に日本郵便でもリスクの高い投資信託を貯金と錯覚させるような不正な営業行為を行なっていたことも判明。いずれも社員や部署でノルマ達成のために違法な契約や営業行為に走らざるを得なくなったという。

公的機関の「ノルマ」

「ノルマ」は営業のないイメージがある公的機関でも存在する。

日本の警察では、交通取り締まり(道路交通法による交通反則通告制度)や職務質問軽犯罪法等での被疑者検挙の総数に『ノルマ』があり、検挙実績を上げて見せる為の不正が、しばしば問題となる(警察不祥事を参照)。

アメリカ軍では「リクルーター」(募兵官)が、ノルマ達成のため貧困層、落ちこぼれの青少年ばかりを「狙い撃ち」にする採用姿勢が、以前から社会問題化しており、この様子はリクルーター本人の同意も得た上で、マイケル・ムーア監督作品「華氏911」で取上げられた。イラク戦争中の2005年には、高等学校中退者に「卒業証明など偽造で十分、分かりゃしない」と吹き込んで、軍隊に志願させていたことが明らかになっている(のちに18歳以上で同等の学力があれば、学歴不問で志願が可能になった)。自衛隊でも広報官には目標数ノルマがあり、入隊志望者が少なかった時代には様々な手段で募集活動を行っていた。

また日本の自治体においてふるさと納税がノルマ化されている自治体あり、市長や幹部職員に「ノルマ」を設け幹部職員や末端の職員が「自爆営業」のような納税を強制しているところもあるという。

宗教・思想の「ノルマ」

宗教、思想(主に政党・政治団体)といった特殊な思考で形作られた組織ではその性質上常に量的拡大を志向し新人活動家獲得、自派宣伝などの活動に一種のノルマを課す例が多い。また、1990年代に猛威を振るった自己啓発セミナーにおいても、受講生に「モチベート実習」「エンロール実習」と称して勧誘をさせ、当然ノルマも存在する。

これらのノルマは組織引き締めに一定の効果を持つが逆に「信心、思想をやりたかったのにこう地味な活動ばかりではつまらない」と成員がより過激な別の宗教分派・党派に移ってしまう弊害(カルトサーフィン)も生じることがある。

その他

ロシアではノルマに関連した言葉として、「意図的なノルマのごまかし」という意味の「トゥフター」というロシア語の単語がある。ソビエト社会主義政権下ではノルマに対するトゥフターが日常的に行なわれていた。それが計画経済運営の見通しを誤らせ、ソビエトが崩壊する原因の一つにもなっている。

脚注

  1. ^ ノルマ 『デジタル大辞泉』 小学館。2018年4月25日閲覧。
  2. ^ 法律違反の危険がある、バイトの「自腹」「罰金」4パターン ~ネット炎上だけでは済まない!~ | 専門家コラム | アルバイト採用・育成に役立つ人材市場レポート「an report」
  3. ^ 「自爆営業」を助長させられている? 「ノルマ未達成」へのペナルティは許されるのか|弁護士ドットコムニュース
  4. ^ 年賀状の「違法販売」続出!?特商法改正で日本郵政迷走|inside|ダイヤモンド・オンライン
  5. ^ 個人情報保護法に関するよくある疑問と回答 | 消費者庁
  6. ^ 労務トラブルQ&A ~ 労働時間・残業・休憩トラブル編 ~
  7. ^ みなし労働時間制とは?

関連項目