ブラック・ライヴズ・マター
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設立 | 2013年7月13日 |
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設立者 | |
種類 | 社会運動 |
所在地 | |
重要人物 |
ショーン・キング ドゥレイ・マッケソン ジョネッタ・エルジー |
ブラック・ライブズ・マター(英: Black Lives Matter、略称「BLM」[1])は、アフリカ系アメリカ人のコミュニティに端を発した、黒人に対する暴力や構造的な人種差別の撤廃を訴える、国際的な積極行動主義の運動である。特に白人警官による無抵抗な黒人への暴力や殺害、人種による犯罪者に対する不平等な取り扱いへの不満を訴えている[2][3]。アリシア・ガーザ、パトリッセ・カラーズ、オーパル・トメティによって呼び掛けられ、広められた。
Black Lives Matter Global Network Foundationに参加している団体は多数あるが、単に「ブラック・ライブズ・マター」と名付けられたブラック・ライブズ・マター運動は、特定の団体を指すのではなく、幅広い人々と組織で構成された社会運動を指す。また「ブラック・ライブズ・マター」というスローガン自体は、どのグループからも商標登録されていない。
概要
2013年、各SNS上で#BlackLivesMatterというハッシュタグが拡散された。これは2012年2月にアメリカフロリダ州で黒人少年のトレイボン・マーティンが白人警官のジョージ・ジマーマンに射殺された事件に端を発する(トレイボン・マーティン射殺事件)。
翌年の2014年には、7月にニューヨークでエリック・ガーナーが白人警察官による過剰な暴力により死亡し、8月にはミズーリ州ファーガソンでマイケル・ブラウンが白人警察官に射殺される。
マイケル・ブラウン射殺事件の翌日にファーガソンで行われたデモ行進と関連した暴動でBLMは世界的に認知されるようになった[4]。ファーガソン騒動以降、アフリカ系アメリカ人が犠牲となった警官の過剰な治安維持行為を糾弾するデモが拡大する。2015年に入るとBLMは2016年アメリカ合衆国大統領選挙を巻き込んだ運動に発展する[5]。2014年から2016年にかけて、運動家であるアリシア・ガーザ、パトリッセ・カラーズ、オーパル・トメティの3名はハッシュタグのさらなる拡散などを求め、さらに全米各地に30箇所以上のネットワークを設立し、全国的なムーブメントに拡大させた[6]。
ブラック・ライヴズ・マターは多くの反響を生んでいる。米国におけるBLM運動の参加者は人種によってばらつきが大きいと言われる。BLMへのカウンターとしてオール・ライブズ・マター(英: All Lives Matter)という運動も勃興した。しかし、All Lives MatterはBLM運動を軽視するスローガンとして発生し、アメリカにおける黒人の現状から論点をずらすために使用されるとして批判の声もある。発起人の一人であるアリシア・ガーザは、All Lives Matterについて、「私たちはすべての命が大切だと当然認識しています。しかし、私たちはすべての命が大切だとされている世界には住んでいないのです」と語った[7][注 1]。さらに暴徒によってファーガソンの警官2人が襲撃を受けて新たな運動に発展し、こちらも警官の人権を主張するブルー・ライブズ・マター(英: Blue Lives Matter)として一定の広がりを見せている。同運動に否定的な黒人の公民権運動家もいる。
反警察的な存在となったBLMに対して批判や疑念の声もある。保守派で白人である、前ニューヨーク市長のルドルフ・ジュリアーニ氏はBLMを根本的に人種差別だとし、反アメリカ的だと述べた。それに対してワシントン・ポスト紙は、人種差別的でないとした上で、前市長が人種問題について自身の想像の中の世界にいると批判した[9]。
ジョージ・フロイド事件などを発端として、2020年にBLM運動は全米的なデモ・暴動へと発展した[注 2]。おもにこれを受けてアメリカ合衆国大統領選挙では人種差別が選挙の争点の一つになった。これがジョー・バイデン勝利の一因になったという見方がある一方で[18]、前回選挙と比べ、NBCの出口調査によると黒人票のうちトランプに投票した割合が8%から12%高まり[19]、他にも黒人票で必ずしも反トランプ票が増えたとは言えないという見方がある[20]。
日本語訳
短く平易な英単語による表現であるが、日本語への翻訳は、かなり困難な英語表現であり、文脈も合わせその意図と読み取る必要がある。
2020年5月のミネソタ州ミネアポリスで発生した黒人男性を白人警官が死に至らしめた事件に端を発する世界的に広がった抗議運動についての報道に際し、ハフポスト日本語版による当初の「黒人の命も大切だ」という日本語訳に対して異論・批判が生じた[21]ことを受け、「黒人の命を守れ」 「黒人の命も大切だ、軽視するな」 「黒人の命は大切(です / だ)」等の修正・追補が行われた[22][23][24]。この「黒人の命は大切」という日本語訳は、他のメディアでも使用されている[25][26]。
一方、「そのまま素直に訳せば、『黒人の命が大切』あるいは『黒人の命は大切』となる。しかし、現在の抗議行動の文脈からすれば、黒人参加者たちは『黒人の命こそ大切』と言っているニュアンスになる」との主張もある[27]。
また、この「黒人の命は大切だ」という日本語訳を用いず、あえて「黒人の命をないがしろにするな」[注 3] 「黒人の命を粗末にするな」[注 4]「黒人の命を軽んじるな」[注 5]と否定形を使った日本語訳も出ている。その他、「黒人の命にも価値がある」[32]、(ジョン・ボイエガが発した「black lives always matter」に対する日本語訳として)「いつだって黒人の命は大切だ」[33]などがある。
このように日本語では一意に翻訳を定めにくい現状を踏まえ、あえて日本語には訳さないほうがよいという主張もある[34]。
世界への波及
BLMのデモ行進はアメリカ国内に留まらず、ヨーロッパや東アジア、中東を含む世界中の国や地域でも行われた。
イギリスでは奴隷貿易の礎を築いたイギリス帝国主義も批判の的になり、各地で奴隷貿易に関わった人物の銅像が引き倒された[35]。
日本においても東京、大阪、名古屋などの主要都市でデモが行われた[36][37][38][39]。また、日本にも根深い人種差別があると指摘する意見や報道もあり[40]、NHKが2020年(令和2年)6月7日に放送した『これでわかった!世界のいま』の内容が「(黒人に対する)侮辱的で配慮に欠けるもの」と批判を受けた[40]。
批判
2020年5月末の約半月だけで、BLMの暴動、略奪、破壊により、保険会社の支払いは10億ドルにのぼった。このため白人穏健派の支持が離れていっており、分断が進んでいる[41]。警察権限の縮小は犯罪の増加につながるとして対抗運動の「ブルー・ライブス・マター」運動が起きている(ブルーは警官のこと)[42]。また黒人差別とされた表現を過度に自粛する動きが相次ぎ、BLM賛成派からは偽善、BLM批判派からは過剰反応と、両者からの批判が生まれている[43]。
バイデン政権とBLMを手動した新世代左派の間には亀裂があり、反トランプでなんとかまとまっている状況にある[44]。
トランプ支持派の黒人作家キャンディス・オーウェンズのように、黒人の中にも批判派は存在する[45]。
脚注
注釈
- ^ 原文:"We do believe that all lives matter, but we don't live in a world where all lives matter"[8]
- ^ この期間には多くの抗議活動が行われたが、暴動に発展した割合はそのうちの一部である[10][11]。うちケンタッキー州ルイビルでは6月27日に、ブリオナ・テイラー事件の抗議活動に定期的に参加していた23歳の男性により抗議活動中に27歳の写真家が射殺された[12][13]。シアトルでは活動家によって抗議活動の一環として街の一角を占拠して”自治”が宣言された”警察から自由”な区域「キャピトルヒル自治区」が設置されたが、ここで銃撃事件が多発して6月30日までに少なくとも19歳の男性と16歳の少年が死亡している[14][15][16]。FBIは外国勢力、特に中国からの介入について捜査を行った[17]。
- ^ ジャーナリストのモーリー・ロバートソンによる[28]
- ^ 京都大学人文科学研究所の竹沢泰子による[29][30]。
- ^ ライター・翻訳家の池城美菜子による[31]。
出典
- ^ 日本放送協会. “Black Lives Matterが意味するもの|アメリカ大統領選挙2020|NHK NEWS WEB”. www3.nhk.or.jp. 2020年11月2日閲覧。
- ^ Lopez, German (2016年7月11日). “Why you should stop saying "all lives matter," explained in 9 different ways”. Vox. 2019年9月19日閲覧。
- ^ Friedersdorf, Conor. "Distinguishing Between Antifa, ...." The Atlantic. August 31, 2017. August 31, 2017.
- ^ Luibrand, Shannon (2015年8月7日). “Black Lives Matter: How the events in Ferguson sparked a movement in America”. CBS News. 2016年12月18日閲覧。
- ^ Eligon, John (2015年11月18日). “One Slogan, Many Methods: Black Lives Matter Enters Politics”. The New York Times. 2016年12月18日閲覧。
- ^ Cullors-Brignac, Patrisse Marie (2016年2月23日). “We didn't start a movement. We started a network.”. Medium. 2016年12月18日閲覧。
- ^ Lincoln Graves (2020年6月3日). “Black Lives Matter leaders say 'All Lives Matter' label misses the point”. 2020年6月3日閲覧。
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- ^ Capehart, Jonathan (2016年7月13日). “No, 'Black Lives Matter' is not 'inherently racist'”. The Washington Post. 2016年10月29日閲覧。
- ^ “93% of Black Lives Matter Protests Have Been Peaceful, New Report Finds”. Time. (2020年9月5日) 2021年2月7日閲覧。
- ^ “DEMONSTRATIONS & POLITICAL VIOLENCE IN AMERICA: NEW DATA FOR SUMMER 2020”. ACLED. 2021年2月7日閲覧。
- ^ “Steven Lopez, suspect in fatal Jefferson Square Park shooting, enters not guilty plea”. Courier journal. (2020年6月30日) 2021年2月15日閲覧。
- ^ “In St. Louis, Seattle and Louisville, Police Find Guns Around Protests”. THE WALL STREET JOURNAL. (2020年6月30日) 2021年2月15日閲覧。
- ^ “Seattle: one teen killed and another injured in shooting in police-free zone”. The Guardian. (2020年6月30日) 2021年2月17日閲覧。
- ^ “Two teenagers shot in Seattle's Chop autonomous zone”. BBC NEWS. (2020年6月30日) 2021年2月17日閲覧。
- ^ “Teen who died in CHOP shooting wanted ‘to be loved,’ those who knew him recall”. The Seattle Times. (2020年6月22日) 2021年2月17日閲覧。
- ^ “Wray reveals FBI 'looking carefully' at foreign interference in protests following George Floyd's death”. FOX NEWS. (2020年6月24日) 2021年2月15日閲覧。
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- ^ Lydia O'Connor「「Black Lives Matter」ムーブメントに火をつけたファーガソン市に、初の黒人市長が誕生する」『ハフポスト』ハフポスト、2020年6月3日。2020年11月2日閲覧。
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- ^ “米 黒人男性死亡事件 抗議デモ各地に広がる 州兵出動も”. NHKニュース. (2020年6月1日) 2020年11月2日閲覧。 [リンク切れ]
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- ^ 「「Black Lives Matterが意味するもの」」『NHKオンライン』2020年6月19日。 - 2020年(令和2年)11月2日閲覧。
- ^ 竹沢泰子「「ブラック・ライブズ・マター」肌の色が生死分けるアメリカの構造」『朝日新聞』2020年6月24日。
- ^ 池城美菜子「「Black Lives Matter 2020」:繰り返される人種問題と抗議運動」『uDiscoverMusic.jp』ユニバーサル ミュージック合同会社、2020年6月2日。2020年11月2日閲覧。「この原稿の冒頭で、よく「黒人の命は大切だ」と訳されるブラック・ライヴズ・マターを、あえて「黒人の命を軽んじるな」と否定形を使って訳したのには理由がある。「〇〇の命は大切」だと、必ず「オール・ライヴズ・マター(All Lives Matter;すべての命は大切)」とまぜっ返す人が出てくるからだ。…」
- ^ フロントロウ編集部「Black Lives Matter(ブラック・ライヴズ・マター)の意味って?なぜ警官は逮捕されない?【解説】」『FONTROW(フロントロウ)』オウトグラフ、2020年6月3日。2020年11月2日閲覧。
- ^ 小笠原遥「SW俳優ジョン・ボイエガさんが魂の絶叫「いつだって我々は大切な存在だ」。ルーカス・フィルムも支持【フロイドさん暴行死】」『ハフポスト』ハフポスト、2020年6月4日。2020年11月2日閲覧。
- ^ “「Black Lives Matter」 定まらぬ日本語訳 黒人差別問題に関心を”. 毎日新聞. (2020年7月27日) 2020年11月2日閲覧。
- ^ “黒人男性虐殺 抗議デモ全世界に波及 米ILWUは全港湾封鎖へ”. ZNN.JP (2020年6月11日). 2020年11月2日閲覧。
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- ^ “大阪で「ブラック・ライブズ・マター」 外国人ら行進:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル. 2020年11月2日閲覧。
- ^ “「人種差別反対」名古屋で300人がデモ、高校生が主催:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル. 2020年11月2日閲覧。
- ^ Nippo, The Niigata. “Cookieを有効にしてください|新潟日報モア”. 新潟日報モア. 2020年11月2日閲覧。
- ^ a b 「日本の人種差別問題、「Black Lives Matter」で浮き彫りに」『BBCニュース』。2020年11月2日閲覧。
- ^ アメリカで支持を低下させる黒人差別反対デモ――BLMは何を間違えたか(六辻彰二) - 個人 - Yahoo!ニュース
- ^ 「警察から力を奪うのはばかげたこと」 米国で波紋「ブルー・ライブズ・マター」指導者に聞く :東京新聞 TOKYO Web
- ^ 企業の“反差別マーケティング”が失敗する理由─BLM運動から見えてきたこと | 消費者は偽善を見抜いている | クーリエ・ジャポン
- ^ 「ウォール街占拠運動2.0」としてのBLM:「新世代左派」と民主党の内紛危機 | 日米グループ-SPFアメリカ現状モニター | 笹川平和財団 - THE SASAKAWA PEACE FOUNDATION
- ^ Politics なぜブラック・ライヴズ・マターを批判するのか? | ele-king
関連項目
- アフリカ系アメリカ人公民権運動
- ブラックパワー・サリュート
- ディファンド・ザ・ポリス
- トレイボン・マーティン射殺事件
- 人種差別
- レイシャル・プロファイリング
- 警察の暴力
- ジョージ・フロイドの死
- 2020年ミネアポリス反人種差別デモ
- I can't breathe
- エリック・ガーナー窒息死事件
- ロドニー・キング
- ロサンゼルス暴動
- ネグロイド#アメリカにおける状況
外部リンク
- 『ブラック・ライブズ・マター』 - コトバンク
- 『人種差別報道:世界の現状とイメージのギャップの裏には』(日本語).GNV. 2019年3月