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誤認逮捕

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誤認逮捕(ごにんたいほ)とは、警察などの捜査機関がある人物を被疑者として逮捕したものの、実際にはその人物は無実であったことが判明した場合の逮捕行為を指す俗語である。

概要

捜査機関がある人物を逮捕した場合に、その後の捜査によってその者の無実が判明し、釈放される場合がある。この場合の逮捕を誤認逮捕という。なお、法的用語とはいえず、マスコミ・一般用語である。

誤認逮捕は、下記に述べるように、現行刑事裁判制度においては逮捕制度に内包された起こり得る状態であるため、被疑者の無罪が確定し、なおかつ真犯人を特定できても直ちに違法行為とはならない。

誤認逮捕であっても被疑者解雇実名報道による信用失墜に繋がる可能性が高い。

誤認逮捕の発生原因・違法性

発生原因

逮捕は、ある人物に対して犯罪の嫌疑を持った場合に必要性があればなしうるが、捜査機関は逮捕を行うことで犯人の逃亡防止や証拠隠滅を防止し、逮捕した人物を起訴をして有罪判決を得られるだけの証拠を集めるための捜査を行うため、この「嫌疑」はその時点の証拠関係から判明した相当程度のものでよい、とされる。したがって、必ずしも確実ではないが、その者の逃走や証拠隠滅を防ぐ必要がある場合には逮捕がなしえ、その人物が無実であった場合も含まれうる。

逮捕した者が実は犯罪を犯していなかった、と後から判明することは制度上起こり得る事態で、捜査機関が適切な努力のもとに、適切な確信をもって逮捕行為を行ったとしても、被逮捕者が犯罪行為者ではないことが捜査の結果判明することは有り得る。

  • 「先行して逮捕された者」が「無実の者」を共犯者として罪を着せようとする場合もある。逮捕後の捜査でその供述が嘘であり、無実が判明すれば、誤認逮捕であったことになるが、この場合の捜査機関の行為は適切である。

もっとも、捜査機関の完全な怠慢によって、あやふやな証拠を妄信し、事実を確認する捜査を怠ったために誤認逮捕が発生してしまう場合もある。

2019年7月28日の愛媛新聞によると、2017年度の逮捕状請求件数は全国で9万2千件を超えるが、そのうち却下されたのは僅か55件であった。

違法性

一般的には「逮捕された人物」=即座に「犯罪者」と確信されがちであり、被逮捕者が犯罪行為者ではないと判明した場合には、警察発表を信じたマスコミによって「捜査機関の誤り」として報道される場合があるが、逮捕手続き自体は適法である。

逮捕などの捜査機関の行為は、裁判所に対し被疑者被告人が有罪か無罪かの判断を求めるための行為であり、逮捕から捜査が進んでもなお被疑者が無実であると判明せず、そのまま起訴した場合にもそれ自体は国家賠償法上の違法性を有しない(「芦別事件最高裁判所判決要旨)。

もっとも、明らかに捜査機関が努力を怠るなどして、無実であることが明らかであるのに敢えて逮捕を行った場合には国家賠償法上違法とされる余地がある。

捜査機関に求められる捜査

先入観にとらわれず、無罪推定の原則・原点に立ち返った適正な犯罪捜査が求められる。

補償

「被疑者補償規定」という法務省訓令があり、検察官は、被疑者として拘束された者(以下、本人)のうち、「嫌疑なし」として不起訴処分とした者(本人が死亡した場合は相続人その他適当と認める者)に対し、補償の申し出があった場合、勾留日数1日につき1,000円以上12,500円以下の補償金を交付することとなっている。補償金の額は、拘束の種類及び期間、本人が受けた財産上の損失、得る筈であった利益の喪失及び精神上の苦痛その他一切の事情を考慮して決められる[1]

但し、以下の場合は補償の一部または全部が行われないことがある[1]

  • 本人の行為が刑法第39条または41条に規定する事由によって罪とならない場合。
  • 本人が捜査または審判を誤らせる目的で、虚偽の自白をし、その他有罪の証拠を作ることにより、勾留されるに至ったと認められる場合。
  • 勾留期間中に捜査(少年法の規定による審判を含む)が行われた他の事実につき犯罪が成立する場合。


起訴され、無罪判決を受けた者に対しては、刑事補償法に基づく補償が行われる。

2000年代以降の誤認逮捕の例

※逮捕されたが起訴されなかった事件、あるいは逮捕・起訴されたが有罪判決が出なかった事件で大きく取り上げられた事件。
監視カメラの映像が原因の誤認逮捕の例は「監視カメラ#誤認逮捕」を参照。

  • 2014年12月、大阪府警察鉄道警察隊の警察官が元会社員の男性を、南海高野線の電車内で痴漢をしたとして堺東駅現行犯逮捕したが、男性は一貫して容疑を否認。警察官らは被害者の女性から、男性に似た人物から痴漢をされていると相談を受けていて、その証言に基づき逮捕した模様だが、翌2015年8月大阪地方裁判所支部が「証拠不十分」として無罪判決を言い渡した[3]
  • 2019年7月、タクシー車内から売上金や運転手のセカンドバッグ等盗んだとして、愛媛県内の20代女性が誤認逮捕され、2日後に釈放された(松山簡易裁判所が勾留請求を却下したため)。その後、女性と容姿が似た人物が「ドライブレコーダーに映っていたのは私です」と名乗り出たことで誤認逮捕が発覚した松山地方検察庁は7月26日、この女性を不起訴(嫌疑なし)とした。また、8月に女性が弁護士を通して手記を公表し、警察の杜撰な捜査が発覚した[4]。この逮捕に関して山本順三国家公安委員長および中村時広愛媛県知事がそれぞれ記者会見で愛媛県警を非難する事態となった[5]

関連項目

脚注