ピタゴラス
ピタゴラス(古代ギリシャ語: Πυθαγόρας, ラテン文字転写: Pȳthagórās[1]、ラテン語: Pythagoras、英: Pythagoras、紀元前582年 - 紀元前496年)は、古代ギリシアの数学者、哲学者。「サモスの賢人」と呼ばれた。ピュタゴラスとも表記される。
生涯
の構成から惑星の軌道まで、多くの現象に数の裏付けがあることに気がついた。そしてついには、宇宙の全ては数から成り立つと宣言した。彼がこの思想にもとづいて創始したピタゴラス教団は、数の性質を研究することにより、宇宙の真理を追究しようとした。教団に入門するには数学の試験があったが、この試験は相当難しく、数学に適性のある者だけが選抜されて教団に集まった。そしてピタゴラス教団は、古代世界で最も著名な数学の研究機関となった。この学派は10を完全な数と考え、10個の点を三角形の形に配置したテトラクテュスを紋章とした。
ピタゴラスやピタゴラス教団はさまざまな数学的な定理を発見したが、彼自身の成果か、教団の他の人物の成果か区別する事は難しい。くはユークリッド原論に含まれているとされる。
アポロドーロスの詩には「ピタゴラスが、あの有名な定理を発見した時に、立派な牡牛を神に生贄として捧げた」と讃えた句がある。ただし、この定理がどの定理を指すのかは明示されておらず、ピ教団の義的な戒律を考えれば、牛を生贄にした事自体も疑わしい。ピタゴラスの定理を指すとする説もあ証拠は無く、ピタゴラス自身がこの定理にどのように関わったのかも不明である。
一方でピタゴラスは数の調和や整合性を不合理なほど重視し、完全数や友愛数を宗教的に崇拝した。そのため教団の1人が無理数を発見したとき、その存在を認めようとするか発見者を死刑にしてしまった。分数でも整数でも書き表せない奇怪な数が存在することは、彼の思想を根本から否定するものだったからである[注釈 1]。の哲学は、ゾロアスター教や道教と同じく二元論が基礎となっており、現象世界を考察する十項目の対立項を提示した[3]。彼の数学や輪廻転生についての思想はプラトンに影響を与えた。アリストテレスは『形而上学』のなかで、この対立項を再現している。彼はオルペウス教の影響を受けてその思想の中で輪廻を説いていたとされて
ピタゴラスは音階の主要な音応する数比を発見したとされている[4]。彼はオクターヴを2:1、完全五度を3:2、完全四度を4:3、そして完全五度と完全四度の差としての全音を9:8と定義した[4]。
ボエティウスは著書の『音楽教程』が音程と数比の関係を発見した経緯を記している。あるの前を通ったピタゴラスは、作業場の何人かの職人が打っているハンマーの音が共鳴して、快い協和音を発していることに気が付いた。中に入って調べてみると、ハンマーの音程は、その重量と関係があった。そこには五本のハンマーがあったが、四本の鎚の重さは「12 : 9 : 8 : 6」の単純な数比の関係に解ったのである。単純な比になっていない他の1本のハンマーだけは、鳴らすと不協和音がした(しかし実際にはこの原理は楽器の弦の長さの比率においては正しいが、金槌の重さには当てはまらない)。
ピタゴラスはさらに弦楽器や笛で実験し、弦の長さの比が弦の振動数の比、つまり音程の関係を支配することを発見した。ピタゴラスは発見した音程の法則を確認するために、モノコードと呼ばれる1本のガットと自在に動かせる駒で構成される調律道具を発明したといわれる[3]。
ピタゴラスに由来するとされるもう一つの音楽に関する学説は、「天球の音楽」の理論である。これは各惑星がある楽音に対応し、それらがハーモニーを形成しているというものである[4]。
ピタゴラスの死後、彼の信奉者は音楽理論に関する学派を形成するが、ピタゴラスの学説が古代ギリシアの音楽の実践に影響を及ぼした可能性はほとんどない[4]。
ピタゴラス音律は周波数の比率が3:2の音程の積み重ねに基づく音律である。中国の三分損益法と基本的に同じものであるが、どちらがより古いのかは定かではない。ピタゴラスコンマはピタゴラス音律における異名同音の差である。
ピタゴラスと豆
ピタゴラスはなぜか、豆をたいへんに嫌った。そのためピタゴラス教団では、豆を食べない規則が全員に強制された。 この奇癖は迷信の多かった当時の基準でも異様で、理由についての色々な憶測があり、アリストテレスは「豆は性器に似ている、あるいはまた地獄の門に似ているから」と書いている。また「食べない方が胃によく安眠が出来るから」という単なる健康上の理由であるともいい、さらに「選挙のときの籤に使われるから」という、政治的理由であったともいう[5][6]。ディオゲネス・ラエルティオスは『ギリシア哲学者列伝』の中でピタゴラスの最期に関する4つの説を紹介している[7]が、それによると彼は豆畑を通って逃げるより、追っ手に捕まって殺されることを選んでいる[6] 。
- クロトンで暴徒に家に放火され、逃げ出したが豆畑のふちに追いつめられ、咽喉を切られて殺された。
- メタポンティオンのムゥサの女神たちの神殿に逃げ込み、40日間の断食をした後で死んだ。 - ディカイアルコスの説
- メタポンティオンに退き、断食をして死んだ。 - ヘラクレイトスの説
- アクラガス人とシュラクサイ人との戦闘で、アクラガス側に参加して戦った。しかしアクラガス軍が敗走し、ピタゴラスは豆畑を避けて廻り道をしたためシュラクサイ軍に追いつかれて殺された。 - ヘルミッポスの説
脚注
注釈
出典
- ^ 「サモス島のピュータゴラース」古代ギリシャ語: Πυθαγόρας ὁ Σάμιος、Pȳthagórās ho Sámios、また単純にΠυθαγόρας、Pȳthagórās、イオニア方言形: Πυθαγόρης、Pȳthagórēs
- ^ マオール 2008, p. 39.
- ^ a b ジェイムス 1998, pp. 49–68.
- ^ a b c d R. P. Winnington-Ingram, “Pythagoras”, The New Grove Dictionary of Music and Musicians, 1980 edition.
- ^ ラエルティオス 1994, pp. 36f.
- ^ a b 『ピタゴラスと豆』:新字新仮名 - 青空文庫
- ^ ラエルティオス 1994, pp. 41–43.
参考文献
- E. マオール『ピタゴラスの定理 4000年の歴史』伊理由美 訳、岩波書店、2008年2月27日。ISBN 978-4-00-005878-0。
- ジェイミー・ジェイムス『天球の音楽 歴史の中の科学・音楽・神秘思想』黒川孝文 訳、白揚社、1998年5月1日。ISBN 978-4-8269-9027-1。
- サイモン・シン「第一章」『フェルマーの最終定理 ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで』青木薫 訳、新潮社、2000年1月1日。ISBN 978-4-10-539301-4。
- サイモン・シン『フェルマーの最終定理』青木薫 訳、新潮社〈新潮文庫 シ-37-1〉、2006年6月。ISBN 978-4-10-215971-2。
- T.L.ヒース「第一章」『復刻版 ギリシア数学史』平田 寛・菊池 俊彦・大沼 正則 訳、共立出版、1998年5月1日。ISBN 978-4-320-01588-3。
関連書籍
- イアンブリコス『ピュタゴラス伝』 4巻、中務哲郎 監修、佐藤義尚 訳、岡道男、国文社〈叢書アレクサンドリア図書館〉、2000年1月1日。ISBN 978-4-7720-0398-8。
- ブルーノ・チェントローネ『ピュタゴラス派 その生と哲学』斎藤憲 訳、岩波書店、2000年1月24日。ISBN 978-4-00-001923-1。
- ディオゲネス・ラエルティオス『ギリシア哲学者列伝』 〈下〉、加来彰俊 訳、岩波書店〈岩波文庫 青 663-3〉、1994年7月18日。ISBN 978-4-00-336633-2。
関連項目
- ピタゴラスの定理
- エウポルボス - ピタゴラスが、彼自身の前世であると主張したギリシア神話の人物。
- ピタゴリオ - ギリシャのサモス島にある都市。ピタゴラスにちなんで名付けられた。
- ピタゴラス教団 - ピタゴラスが作った宗教結社(教団)。
- ピタゴラスのカップ - ピタゴラスが作ったとされるトリック容器。
- 哲学
- 数学
外部リンク
- 『ピタゴラスと豆』:新字新仮名 - 青空文庫
- 『ピタゴラス』 - コトバンク