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ニュークリア・シェアリング

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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核兵器拡散状況
     核保有国
     ニュークリア・シェアリング
     NPTのみ
     非核兵器地帯

ニュークリア・シェアリング(英語:Nuclear Sharing)または核共有とは、核保有国核兵器を同盟国と共有するという考え方、戦略[1]アメリカNATOに供給する形で実現された核抑止における政策上の概念である。NATOが核兵器を行使する際に独自の核兵器を持たない加盟国が計画に参加することと、特に加盟国がその国内において核兵器を使用する為に自らの国の軍隊を提供することが含まれている。

概要

ニュークリア・シェアリング参加国は核兵器に関する政策に対して決定力を持ち、核兵器搭載可能な軍用機などの技術・装備を保持し、核兵器を自国領土内に備蓄するものである。ソ連やその衛星国に配備された核兵器に対応する為にドイツ・イタリア・ベルギー・オランダは自国内にアメリカが所有する核兵器を設置している。なお4カ国とも各国の政府がそれぞれ使用権限を持っている[2]

参加国

NATO内の核保有国である3カ国(アメリカイギリスフランス)のなかで唯一アメリカだけがニュークリア・シェアリングのための核兵器を提供している。現在ニュークリアシェアリングを受けている国はベルギードイツイタリアオランダトルコである。イギリスは自ら核保有国で原子力潜水艦にミサイルを積んで自国を防衛した上に、1992年までアメリカの戦術核兵器の提供を受けており、提供された核兵器は主に西ドイツ国内に配備されていた[2]

核兵器の管理方法

平時においては非核保有国内に備蓄された核兵器はアメリカ軍により防衛され、核兵器を起動する暗号コードはアメリカの管理下にある。有事にあっては核兵器は参加国の軍用機に搭載され、核兵器自体の管理・監督はアメリカ空軍弾薬支援戦隊(USAF Munitions Support Squadrons)により行われることになっている[3]。戦時に於いて核戦力の行使はNATOの総意とされるが、敵地領土への最終的な判断はあくまで核兵器提供国にある。その為たとえ他のNATO加盟国全てが同意しても、アメリカが拒否すれば敵領土へは核兵器は使用できない。侵略されて領土が敵軍に占領されている場合は逆にドイツ・イタリア・ベルギー・オランダで侵略された領土の政府の許可が必要である[2]

歴史

2005年までに480基の核兵器がヨーロッパに展開していたと思われる。また180発のB61戦術核爆弾が、ニュークリア・シェアリングのために提供されたといわれる。

これらの核兵器は、アメリカ空軍が採用している航空機用掩蔽シェルター(WS3システム USAF WS3 Weapon Storage and Security System)の中に備蓄されていた。また投下に用いられる軍用機として当初はF-104Gのような高速戦闘機が、後にはマルチロール化したF-16パナビア・トーネードが採用されていた。

シェアされた核兵器は爆弾に限定された訳では無い。例えばギリシャはナイキ・ハーキュリーズ地対空ミサイルA-7攻撃機を保有し、カナダは対空核ミサイル・MGR-1地対地核ロケット弾・AIR-2空対空核ロケットCF-104戦闘機・CF-104用戦術核兵器を保有していた。また西ドイツもMGM-31パーシングII短距離弾道ミサイルを装備していた。またソビエト連邦の崩壊以後NATOでシェアされていた核兵器は削減されており、現在では旧式化した戦術核爆弾だけが残っている。

ドイツ国内唯一の核基地がルクセンブルク近郊にあるブューヒェル(Büchel)に存在する。基地内にはWS3で装備された11個の航空機用掩蔽シェルターがあり、核兵器備蓄用に使われている(最大備蓄数は44発)20発のB61核爆弾が備蓄され、ドイツ空軍トーネードIDSを装備する第33戦闘爆撃戦航空団(第33戦術空軍戦隊)が投下任務に当たっている。

NPTをめぐる考察

非加盟国とNATO内の批判として、NATOのニュークリアシェアリングは「核保有国」と「非核保有国」相互での核兵器の直接・間接的な移転及び受け入れの双方を禁じている核拡散防止条約第1条と第2条に違反しているとする見解がある(ちなみにNATO加盟国のうちドイツとイタリアが非核保有国である)。これに対してアメリカ政府は、以下のような解釈を取っている。

  • 核爆弾及び核コントロールの移転は許されない。
  • ただし許されないのは戦争勃発の時点までであり、戦時にはNPT条約の規制は及ばない。
  • したがって、NPTに違反はしない。

しかしながら、核兵器を「保有していない」NATO各国のパイロット及び人員はアメリカの核爆弾を投下するために配備されており、技術的な核兵器に関する情報の移転が含まれている。仮にアメリカの主張が法的に正しいものとしても、平時におけるそのような作戦は、NPTの精神と目的に反するように思われるとする議論がある。実質的に核戦争の為の準備が非核保有国によって行われていると主張している。

NPT条約の交渉中にNATOのニュークリア・シェアリング合意は秘密事項であった。これらの議論はいくつかの国には開示され、ソビエト連邦も含まれていた。開示された国との間ではNATOの合意が違反ではない扱いを受けることが交渉されていたが、1968年に締結されたNPTに署名したほとんどの国が、その時点では合意の存在とその解釈を知る事は無かった。

日本とアメリカ

1950年代に自衛隊とアメリカ軍の間で、アメリカから核弾頭を提供する形での日米間の核共同保有が一時検討されていた。背景にはアメリカが西側防衛のため核兵器への依存を深めていた事情があったとされる。第五福竜丸事件などで日本の反核世論が盛んになっていなかった場合、日本は「核保有国」になっていた可能性も指摘される[4]

沖縄返還が近付いていた1968年米国務省側は日本に対し、沖縄からの米軍核兵器撤去と引き換えに、日米合同の核戦力海上部隊を設立するよう要求した。この背景には沖縄返還後も、沖縄基地の自由使用や、沖縄の核戦力配置の継続を求めた米軍の意向があったと言われる。[5]

脚注

  1. ^ ニュークリア・シェアリングとは何? Weblio辞書”. www.weblio.jp. 2022年1月9日閲覧。
  2. ^ a b c PRESIDENT 2017年10/16号,p15
  3. ^ この部隊はNATOの主作戦基地内で、ホスト国の軍隊と一緒に行動・勤務する。
  4. ^ “米「自衛隊は核武装を」50年代公文書 共同図上演習で原爆”. 神戸新聞. (2015年1月18日) 
  5. ^ “「日米共同で核部隊編成」米高官、首相密使に要求”. 神戸新聞. (2020年1月6日) 

関連項目