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内戦

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内戦(ないせん、: Civil war)は、国家の領域内で対立した勢力によって起こる、政府と非政府による組織間の武力紛争を指す。

用語

「内戦 (civil war)」と「内乱 (rebellion)」は同義に用いられることも多く、厳密な区別はない。しかし、一般的には暴動の範囲内である事象を「内乱」と呼び、武力を用いる形態にまで発展した事象を「内戦」と呼んで区別する場合もある。欧米言語では「civil war」(英語)や「bellum civile」(ラテン語)や「Bürgerkrieg」(独語)というように「市民戦争」「市民同士の戦争」という言い方をする。

ただし、近代的な国際関係・国際秩序が形成された1648年ヴェストファーレン条約前の時代では、内戦と対外戦争との区別は明確ではない。また、政府が倒されて政治体制が転換された場合にはフランス革命共産主義革命ルーマニア革命 (1989年)のように、内戦や内乱ではなく「革命」という表記を用いる場合も多い。

タンペレの戦い後の都市遺跡(フィンランド内戦; 1918年)
スペイン内戦(1937年)
レバノン内戦(1978年)

内戦と内乱の用語の使い分けは慣習的なもので、明確な区別があるわけではない。スペイン内戦は「スペイン内乱」とも呼ばれる。国家の転覆を意図した者には内乱罪が適用される例が見られるが、内戦の規模が大きくなると、アメリカ南北戦争やレバノン内戦のように政治的理由から内乱罪の適用が避けられることもある。

国際法上の位置づけとしては、従来は中央政府が反乱側を交戦団体として承認しない限り戦時国際法は適用されず、交戦団体承認自体がアメリカ南北戦争を例外としてはほぼ行われなかったため、ほとんどの内戦は戦時国際法の範囲から外れていた。しかし、 1949年のジュネーブ諸条約共通三条において、内戦時の戦闘外人員に対する人道的対応が義務づけられ、1977年のジュネーヴ諸条約第二追加議定書によってさらに保護は強化された。また、同年のジュネーヴ諸条約第一追加議定書により、民族解放戦争に関しては戦時国際法の全面的な適用が可能となった[1]

植民地の独立戦争などにおいて支配側は「内戦」や「反乱」と呼び、植民地側は「独立戦争」と呼ぶことが多く、アルジェリア戦争のようにアルジェリア側は「独立戦争」と呼び、フランス側は「内戦」と呼んだように、戦争の性質によって内戦かどうか意見が分かれることも多い。このような場合には、支配者側が交戦相手を国家とは見なさず、相手を戦時捕虜ではなく犯罪者として扱い、捕虜の権利を認めない、犯罪者として処刑したりする事態が発生することも多い。1989年のルーマニア革命では、国軍秘密警察という国家機関同士の戦いになり、秘密警察の構成員は全員が非合法組織の犯罪者とされ、死刑、懲役、公職追放などの処罰を受けている。

原因

まず内戦は、全国政府の座を争うためのものと、分離独立や自治権確立といった地方の分離主義によるものの2種類に大きく分けられる[2]。前者の例としては、戊辰戦争国共内戦シリア内戦アンゴラ内戦などが挙げられる。

経済的要因

従来、内戦の原因としては国家内の各集団間の不平等格差による不満が主因であると考えられてきた。これに対し、1998年にポール・コリアーとアンケ・ヘフラーが経済的利益のために内戦が起こるという説を提唱し、以後この「強欲対不満英語版」論争は内戦研究の大きな潮流となったが、この枠組みでの分類を不適切であるとする研究者もいる[3]

1998年のコリアーとヘフラーの研究においては、まず貧困国の方が富裕国よりも内戦の可能性が高いこと、さらにそのなかでも経済成長がマイナスあるいは停滞している国家はさらに内戦の可能性が高まることが示された[4]。これは、貧困国では治安維持予算が不十分なため警察能力や国軍の能力が低く反乱を起こしやすいことや、住民の収入が低い場合反乱に訴えた方がよりよい収入を確保できる可能性が高いことが理由と考えられている。例として、労働力が不足していて失業率が低い場合や、識字率が高くより仕事を求めやすい地域においては反乱の発生率が下がることが判明している[5]

コリアーとヘフラーの研究ではまた、当該国が天然資源一次産品に経済を頼っている場合、内戦の可能性が高まることも示された[6]。経済の一次産品への依存度が26%になる場合が最も内戦の危険が大きく、およそ2割前後の発生危険性があるとされる[7]。これは天然資源は現金化しやすく、反乱軍の資金源になりやすいことや、資源収入は不平等を作り出しやすいこと、資源収入があれば市民からの税収に頼る必要が減少するためガバナンスが劣悪化し市民の不満がたまりやすいこと、資源は地理的に偏在しやすく産出地の不満と野望を生みやすいこと、そして一次産品は価格が変動しやすく不況時に受ける経済的ショックが大きくなりがちであることなどが理由であると考えられている[8]。ただしその後研究が進み、たとえば石油収入が経済の大部分を占めるようになると、逆に内戦の危険は大幅に低下することが判明している。これは豊富な資金によって治安関係や国民福祉を大幅に増強することができるため、国民の不満が減り統治能力が増強されるためであると考えられている[9]

不平等と不満

一般的なイメージとは違い、民族宗教などの多様性は必ずしも内戦の可能性を高めるわけではないとの研究結果はフィアロン&レイティン、コリアー&へフラーの研究など複数存在する[10]。一方で、2013年のラース・エリック・シダーマンの研究では、国家体制から政治的・経済的に疎外される民族集団が存在し、民族集団間で不平等が存在する場合は疎外された集団の反乱可能性は非常に高くなるとの結果が得られている[11]

政治的要因

中央政府の統治能力の低さは内戦につながりやすいと考えられている。ジェームズ・フィアロン英語版とデビッド・レイティンは2003年の研究で、統治能力の低い国家では治安維持能力の強化や交通網の整備が不十分で、反乱が起こりやすいと指摘した[12]。経済的な不満や地域的な対立などの不安要素が存在する場合においても、政府の統治能力が高い場合は内戦勃発リスクは大幅に減少する[13]

政府の統治能力の極端に低い、いわゆる失敗国家において、特に失敗の度合いがひどい場合は暴力の独占が崩れ、各地に軍閥が割拠し内戦が勃発する場合がある[14]。 内戦が激化した場合、1991年以降のソマリアのように中央政府そのものが事実上崩壊し、無政府状態となる例も存在する[15]

最近の傾向

2019年現在、国際連合の加盟国193カ国中50カ国以上が内戦状態にある[16][17]

ウプサラ紛争データプログラムによれば、1940年代には20件/年以下だった内戦は1980年代には40件/年以上になり、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争が始まった1992年には50件/年を超えた[16]。その後、2000年代には30件台/年まで減少したが、アラブの春が始まった2010年代に急増し、2015年以降は毎年50件/年を超えた[16]。またシリア内戦のように周辺国やグローバル大国が内戦に介入する国際化した内戦も2013年以降急増しており、2015年には第二次世界大戦後初めて20件/年を超え、その後も超過が続いている[16][17]

内戦一覧

近代的な国際関係・国際秩序が形成されたおもに17世紀後半以降の内戦のみをあげる。戦争一覧および独立戦争一覧も参照。

脚注

  1. ^ 「国際法 第5版」p308-310 松井芳郎・佐分晴夫・坂元茂樹・小畑郁・松田竹男・田中則夫・岡田泉・薬師寺公夫著 有斐閣 2007年3月20日第5版第1刷発行
  2. ^ 「戦争とは何か」p90 多湖淳 中公新書 2020年1月25日発行
  3. ^ 「比較政治学」p75 粕谷祐子 ミネルヴァ書房 2014年9月30日初版第1刷
  4. ^ 「民主主義がアフリカ経済を殺す 最底辺の10億人の国で起きている真実」p166 ポール・コリアー 甘糟智子訳 日経BP社 2010年1月18日第1版第1刷発行
  5. ^ 「戦争の経済学」p268-269 ポール・ポースト 山形浩生訳
  6. ^ 「民主主義がアフリカ経済を殺す 最底辺の10億人の国で起きている真実」p167 ポール・コリアー 甘糟智子訳 日経BP社 2010年1月18日第1版第1刷発行
  7. ^ 「戦争の経済学」p270 ポール・ポースト 山形浩生訳
  8. ^ 「戦争の経済学」p270-271 ポール・ポースト 山形浩生訳
  9. ^ 「比較政治学」p77 粕谷祐子 ミネルヴァ書房 2014年9月30日初版第1刷
  10. ^ 「比較政治学」p78 粕谷祐子 ミネルヴァ書房 2014年9月30日初版第1刷
  11. ^ 「戦争とは何か」p98-101 多湖淳 中公新書 2020年1月25日発行
  12. ^ 「比較政治学」p80 粕谷祐子 ミネルヴァ書房 2014年9月30日初版第1刷
  13. ^ 「暴力的紛争リスクの経済学 内戦・テロの発生要因・予防と対策に焦点を当てて」p252 木原隆司 (巨大災害・リスクと経済」所収 澤田康幸編 日本経済新聞出版社 2014年1月10日1版1刷)
  14. ^ 「政治学の第一歩」p29-30 砂原庸介・稗田健志・多湖淳著 有斐閣 2015年10月15日初版第1刷
  15. ^ 「国家の破綻」p22-23 武内進一 (「平和構築・入門」所収 藤原帰一・大芝亮・山田哲也編著 有斐閣 2011年12月10日初版第1刷)
  16. ^ a b c d Pettersson, Therese & Magnus Öberg (2020). “Organized violence, 1989-2019”. Journal of Peace Research 57(4). https://www.ucdp.uu.se/downloads/charts/graphs/pdf_20/armedconf_by_type.pdf. 
  17. ^ a b 東大作『内戦と和平 現代戦争をどう終わらせるか』中央公論新社、2020年1月25日、Kindle版、位置No. 486/3211頁。 

参考文献

  • 田所昌幸「安全保障の新展開:1 内戦型紛争」防衛大学校安全保障学研究会編『最新版 安全保障学入門』亜紀書房、2003年、pp.254-258.
  • Asprey, R. B. 1975. War in the shadows: The guerrilla in history. 2 vols. New York: Doubleday.
  • Bond, J. E. 1974. The rules of riot: International conflict and the law of war. Princeton, N.J.: Princeton Univ. Press.
  • Wheatcroft, A. 1983. The world atlas of revolutions. New York: Simon and Schuster.

関連項目

外部リンク