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佐伯啓思

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佐伯 啓思
さえき けいし
人物情報
生誕 (1949-12-31) 1949年12月31日(74歳)
日本の旗 日本奈良県奈良市
学問
時代 昭和(戦後)
平成
令和
活動地域 日本の旗 日本
学派 保守主義
ケインズ主義[1]
研究分野 経済学
文明論(国際文明学、共生文明学、現代文明論、現代社会論)
経済思想史政治思想史
日本哲学
研究機関 東京大学
広島修道大学
滋賀大学
京都大学
影響を受けた人物 西部邁
村上泰亮
ジョン・メイナード・ケインズ
フリードリヒ・ニーチェ
その他
主な受賞歴 サントリー学芸賞
NIRA政策研究・東畑記念賞
読売論壇賞
正論大賞
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佐伯 啓思(さえき けいし、1949年昭和24年〉12月31日 - )は、日本経済学者[2][3]思想家京都大学名誉教授。京都大学こころの未来研究センター特任教授[4]滋賀大学教授・京都大学教授等を歴任。共生文明学、現代文明論、現代社会論といった国際文明学、文明論を研究している[5][6]。第4期文部科学省中央教育審議会委員を務めた[7]

人物

1949年(昭和24年)、奈良県奈良市に生まれる。父は教育学者の佐伯正一。1972年(昭和47年)、東京大学経済学部を卒業。1979年(昭和54年)、東京大学大学院経済学研究科理論経済学専攻博士課程単位取得退学。西部邁村上泰亮に師事した[注釈 1]。専攻は社会経済学社会思想史。

1979年(昭和54年)、広島修道大学商学部講師。1981年(昭和56年)、滋賀大学経済学部助教授、同教授を経て、1993年(平成5年)から京都大学総合人間学部教授。1997年(平成9年)、京都大学大学院人間・環境学研究科教授。2015年(平成27年)、定年退職し、名誉教授になり、京都大学こころの未来研究センター特任教授に就任した。

表現者顧問、京の発言主幹を務める。また京都大学を定年退職直後に朝日新聞論評面で「異論のススメ」を担当開始した(2015年4月から2019年3月まで月イチ、以後は四半期に1度のスペシャル版)。2019年(令和元年)、自ら監修・編集・対談を行う総合文藝誌『ひらく』を刊行開始した。

2021年(令和3年)9月より、論壇チャンネル「ことのは」で番組(「佐伯啓思の現代文明論講義」)を配信中。

主張

大きく分けて、米国批判と近代批判がある。

アメリカ批判

自由主義民主主義を国家の理念に据えるアメリカこそが、思想史的に革新進歩主義であり、冷戦が終結した今、最も左翼的で進歩的な国家はアメリカであるとして、アメリカおよび自民党保守右翼反米および反自民党を革新左翼とみなすという誤謬に陥っている戦後の日本社会を批判している[8]

近代批判

経済思想面では、ケインズの立場に立脚し、グローバリズムおよび、構造改革小泉竹中新自由主義小さな政府路線を批判している[1][9]

ニーチェの思想に基づき、近代の価値観である基本的人権自由主義民主主義は必然的にニヒリズムに陥るとしている。先述のアメリカ批判もこの延長上にあり、日本がアメリカ化し、ニヒリズムに陥っていることを問題視している。かつてはニヒリズムに対抗する術として、師の西部邁同様、保守主義を標榜していた。しかし、近年では、冷戦体制崩壊後の社会構造の変化によって、「保守と革新」、「右翼と左翼」という対立軸が不明瞭になったこともあり、これらの対立軸が既に時代遅れになった感があるとして、保守や革新に安易に拘泥することにも懐疑的な姿勢を向けている[10]

現在では、社会思想史や経済思想および時事問題から日本思想史・日本哲学に軸足を移している。東洋や日本の「無」の思想の意義を探り、小林秀雄保田與重郎の思想、西田幾多郎の哲学、西谷啓治らによる「近代の超克」を手がかりにニヒリズムの克服を目指している[11]

学問に関して

本来「公共的な意志」で評価されるべき学問の場に、過度の成果主義、能力主義、市場競争が持ち込まれ、「何の社会的な役割も果たさないように見える、しかし長い目でみれば重要な意味をもつ研究」が切り捨てられることを懸念している。特に文系の学問には市場を基準とした評価はそぐわないと主張している[12]

現代に生きる人間は情報の洪水の中にいて大量の知識や情報があるがゆえに、それらを相互に関連付けたり解釈することができなくなっているのではないかと危惧している。そのため、現在の社会科学には学者自身の視座がなく、全体的な展望が失われてしまったと指摘している。なお、佐伯自身は文献をくまなく渉猟するよりも、古典を通して「現代」の本質を理解することの方が重要だとしている[13]

安倍晋三について

安倍は日本の伝統を守り、道徳教育を重視する点は、心情的には保守に見えるがアベノミクスを見る限り保守とはいえないとし、経済改革の進め方は急激であり地域格差や所得格差を広げ、社会の安定を崩している。第1次安倍内閣組閣時も、進歩を疑い歴史に学ぼうとするヨーロッパ流の保守と、進歩を信じ革新を目指す米国流の思想が混在しているという見方をしている[14]

集団的自衛権について

集団的自衛権の行使について現行憲法は必ずしも明確に規定してはおらず、その解釈が常に論じられてきたとなれば、解釈変更自体は問題ではない。」とし、立憲主義の破壊といった主張には距離を置いている[15]

受賞歴

著作

単著

  • 『隠された思考 市場経済のメタフィジックス』筑摩書房、1985年6月20日。ISBN 978-4-480-85267-0 
  • 『時間の身振り学 市場社会の表層へ』筑摩書房、1987年1月23日。ISBN 4-480-85353-7 
  • 『擬装された文明 大衆社会のパラドックス』ティビーエス・ブリタニカ、1988-0。ISBN 4-484-88210-8 
  • 『「シミュレーション社会」の神話 意味喪失の時代を斬る』日本経済新聞社、1988年10月。ISBN 4-532-09453-4 
  • 『産業文明とポスト・モダン』筑摩書房、1989年5月9日。ISBN 4-480-85492-4 
  • 『市場社会の経済学』新世社〈新経済学ライブラリ 17〉、1991年10月1日。ISBN 4-915787-17-6  - 発売:サイエンス社
  • 『「アメリカニズム」の終焉 シヴィック・リベラリズム精神の再発見へ』ティビーエス・ブリタニカ、1993年4月。ISBN 4-484-93210-5  - 参考文献:pp.269-271。
  • 『「欲望」と資本主義 終りなき拡張の論理』講談社〈講談社現代新書〉、1993年6月16日。ISBN 4-06-149150-4  - 参考文献:pp.220-221。
  • 『イデオロギー/脱イデオロギー』岩波書店〈21世紀問題群ブックス 5〉、1995年11月6日。ISBN 4-00-004425-7  - 参考文献:pp.201-204。
  • 『現代日本のリベラリズム』講談社〈Kodansha philosophia〉、1996年4月10日。ISBN 4-06-208102-4 
  • 『現代民主主義の病理 戦後日本をどう見るか』日本放送出版協会NHKブックス 788〉、1997年1月1日。ISBN 978-4-14-001788-3 
  • 『「市民」とは誰か 戦後民主主義を問いなおす』PHP研究所PHP新書〉、1997年7月。ISBN 4-569-55695-7 
  • 『現代日本のイデオロギー グローバリズムと国家意識』講談社〈Kodansha philosophia〉、1998年4月。ISBN 4-06-208998-X  - 索引あり。
  • 『アダム・スミスの誤算』PHP研究所〈PHP新書. 幻想のグローバル資本主義 上〉、1999年6月。ISBN 4-569-60535-4 
    • 『アダム・スミスの誤算』中央公論新社〈中公文庫 さ66-1.幻想のグローバル資本主義 上〉、2014年3月25日。ISBN 978-4-12-205919-1  - 佐伯 (1999a)の再刊。
  • 『ケインズの予言』PHP研究所〈PHP新書. 幻想のグローバル資本主義 下〉、1999年7月。ISBN 4-569-60675-X 
    • 『ケインズの予言』中央公論新社〈中公文庫 さ66-2.幻想のグローバル資本主義 下〉、2014年3月25日。ISBN 978-4-12-205920-7  - 佐伯 (1999b)の再刊。
  • 『貨幣・欲望・資本主義』新書館、2000年12月15日。ISBN 4-403-23083-0 
    • 『貨幣と欲望 資本主義の精神解剖学』筑摩書房〈ちくま学芸文庫 サ4-2〉、2013年6月10日。ISBN 978-4-480-09561-9  - 佐伯 (2000b)を改題、補論を加える。
  • 『国家についての考察』飛鳥新社、2001年8月13日。ISBN 4-87031-473-8 
  • 『総理の資質とは何か 崩壊する小泉改革』小学館小学館文庫〉、2002年6月。ISBN 4-09-402736-X 
  • 『新「帝国」アメリカを解剖する』筑摩書房〈ちくま新書〉、2003年5月6日。ISBN 4-480-06110-X 
  • 『成長経済の終焉 資本主義の限界と「豊かさ」の再定義』ダイヤモンド社、2003年7月。ISBN 4-478-23129-X 
  • 『砂上の帝国アメリカ』飛鳥新社、2003年9月6日。ISBN 4-87031-581-5 
  • 『人間は進歩してきたのか 「西欧近代」再考』 現代文明論 上、PHP研究所〈PHP新書〉、2003年10月15日。ISBN 4-569-63188-6  - 文献あり。
  • 『20世紀とは何だったのか 「西欧近代」の帰結』 現代文明論 下、PHP研究所〈PHP新書〉、2004年5月17日。ISBN 4-569-63546-6  - 文献あり。
    • 『20世紀とは何だったのか 西洋の没落とグローバリズム』PHP研究所〈PHP文庫 さ61-2〉、2015年3月2日。ISBN 978-4-569-76306-4  - 佐伯 (2004b)の加筆、修正。
  • 『自由とは何か 「自己責任論」から「理由なき殺人」まで』講談社〈講談社現代新書〉、2004年11月18日。ISBN 4-06-149749-9 
  • 『倫理としてのナショナリズム グローバリズムの虚無を超えて』NTT出版、2005年1月25日。ISBN 4-7571-4091-6 
  • 『学問の力』NTT出版〈NTT出版ライブラリーレゾナント 23〉、2006年4月12日。ISBN 4-7571-4135-1 
  • 『「こころ」を失った競争経済』國民會館〈國民會館叢書 72〉、2007年9月。  - 会期・会場:2007年(平成19年)4月14日、國民會館
  • 九州大学政治哲学リサーチコア 編『名著から探るグローバル化時代の市民像 九州大学公開講座講義録』花書院〈比較社会文化叢書 6〉、2007年3月。ISBN 978-4-903554-05-1  - 文献あり。
  • 『日本の愛国心 序説的考察』NTT出版、2008年3月。ISBN 978-4-7571-4175-9  - 文献あり。
  • 『自由と民主主義をもうやめる』幻冬舎〈幻冬舎新書〉、2008年11月。ISBN 978-4-344-98097-6 
  • 『国際金融危機とグローバリゼーション.』農林水産奨励会〈農林水産叢書 no.60〉、2009年3月。 
  • 『大転換 脱成長社会へ』NTT出版、2009年3月。ISBN 978-4-7571-2229-1 
  • 『現代文明の危機としての経済危機』佐伯啓思 述、科学技術振興機構社会技術研究開発センター〈社会技術レポート no.20.科学技術と知の精神文化:講演録 14〉、2010年8月。ISSN 1880-3687  - 会期・会場:2009年(平成21年)5月21日、社会技術研究開発センター。
  • 『日本という「価値」』NTT出版、2010年8月。ISBN 978-4-7571-4248-0 
  • 『現代文明論講義 ニヒリズムをめぐる京大生との対話』筑摩書房〈ちくま新書 910〉、2011年6月。ISBN 978-4-480-06614-5  - 並列シリーズ名:CHIKUMASHINSHO。
  • 『反・幸福論』新潮社新潮新書 450〉、2012年1月。ISBN 978-4-10-610450-3 
  • 『経済学の犯罪 稀少性の経済から過剰性の経済へ』講談社〈講談社現代新書 2171〉、2012年8月。ISBN 978-4-06-288171-5 
    • 『経済学の思考法 稀少性の経済から過剰性の経済へ』講談社学術文庫、2020年11月。ISBN 978-4-06-521774-0。増訂版
  • 『文明的野蛮の時代』NTT出版、2013年1月。ISBN 978-4-7571-4302-9 
  • 『日本の宿命』新潮社〈新潮新書 502〉、2013年1月。ISBN 978-4-10-610502-9 
  • 『正義の偽装』新潮社〈新潮新書 554〉、2014年1月。ISBN 978-4-10-610554-8 
  • 『西田幾多郎 無私の思想と日本人』新潮社〈新潮新書 589〉、2014年10月。ISBN 978-4-10-610589-0 
  • 『従属国家論 日米戦後史の欺瞞』PHP研究所〈PHP新書 988〉、2015年6月。ISBN 978-4-569-82539-7 
  • 『さらば、資本主義』新潮社〈新潮新書 641〉、2015年10月。ISBN 978-4-10-610641-5 
  • 『反・民主主義論』新潮社〈新潮新書 687〉、2016年10月。ISBN 978-4-10-610687-3 
  • 『経済成長主義への訣別』新潮社〈新潮選書〉、2017年5月。ISBN 978-4-10-603802-0 
  • 『さらば、民主主義 憲法と日本社会を問いなおす』朝日新聞出版〈朝日新書 617〉、2017年5月。ISBN 978-4-02-273717-5 
  • 『「脱」戦後のすすめ』中央公論新社〈中公新書ラクレ 603〉、2017年11月。ISBN 978-4-12-150603-0 
  • 『「保守」のゆくえ』中央公論新社〈中公新書ラクレ 615〉、2018年3月。ISBN 978-4-12-150615-3 
  • 『死と生』新潮社〈新潮新書 774〉、2018年3月。ISBN 978-4-10-610774-0 
  • 『異論のススメ 正論のススメ』エイアンドエフ〈A&F BOOKS〉、2018年11月。ISBN 978-4-909355-07-2 
  • 『近代の虚妄 現代文明論序説』東洋経済新報社、2020年10月9日。ISBN 978-4-492-22396-3 
  • 『死にかた論』新潮社〈新潮選書〉、2021年5月。ISBN 978-4-10-603866-2 
  • 『さらば、欲望 資本主義の隘路をどう脱出するか』幻冬舎〈幻冬舎新書〉、2022年5月。ISBN 978-4-344-98656-5 

共著

共編著

監修

脚注

注釈

  1. ^ 「なかでも教養学部の村上泰亮教授が経済、社会、政治学を統合して現代日本を論じていて、共感しました。村上さんを囲む数人の集まりを作り、毎週議論しました。その後、大きく影響を受けた西部邁さんと出会ったのも、ここです。」朝日新聞 2013年10月16日 織井優佳記者『人生の贈りもの 佐伯啓思さん』

出典

  1. ^ a b 佐伯 2009b, pp. 18–22, 208–221。
  2. ^ ひろ 1994, p. 167。
  3. ^ 産業文明とポスト・モダン(筑摩書房) - 著者:佐伯 啓思 - 橋爪大三郎による書評”. 2017年9月24日閲覧。
  4. ^ 佐伯啓思|スタッフ紹介”. 京都大学 こころの未来研究センター. 2019年1月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年6月29日閲覧。
  5. ^ 京都大学大学院人間・環境学研究科教員紹介 Archived 2012年10月26日, at the Wayback Machine.
  6. ^ 『夕学五十講』講師紹介ページ”. 2017年9月19日閲覧。
  7. ^ 中央教育審議会 委員名簿”. 2015年4月17日閲覧。
  8. ^ 佐伯 2008b[要ページ番号]など
  9. ^ 佐伯 1993b[要ページ番号]佐伯 2009b[要ページ番号]など
  10. ^ 佐伯 2008a, p. 31など。
  11. ^ 佐伯 2008a, 第四章、第六章、佐伯 2010b[要ページ番号]佐伯 2011[要ページ番号]
  12. ^ 【日の蔭りの中で】京都大学教授・佐伯啓思 STAP細胞の夢、どこへ - MSN産経ニュース”. 2014年4月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年9月19日閲覧。
  13. ^ 佐伯 2004b, はしがき。
  14. ^ 朝日新聞 2015年1月11日朝刊「天声人語」
  15. ^ 佐伯啓思 (2014年10月). “立憲主義を破壊する…わけがない解釈変更”. ironna 正論. 2017年9月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年6月29日閲覧。
  16. ^ 中埜肇. “佐伯 啓思『隠された思考』”. サントリー. 2016年3月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年6月10日閲覧。
  17. ^ 正論大賞の歴史”. 産経新聞社. 2019年6月29日閲覧。

参考文献

関連項目

外部リンク