電気事業者に関するクライテリアの日本語版を発表: 1.5℃整合のトランジションを支援

電気事業者に関するクライテリアの日本語版を発表: 1.5℃整合のトランジションを支援

このたび「電気事業者に関するクライテリア」(2024年3月発行)の日本語訳 がご利用可能となりました。 

電力セクターは世界の温室効果ガス(GHG)排出の最も大きな排出源です。世界がネット・ゼロ排出とパリ協定の野心的な目標を達成する上で、電気事業者に必要とされているトランジション計画の要素を本クライテリアは示しています。

 

「電気事業者に関するクライテリア」の認証範囲

本クライテリアの発行により、電気事業者およびそれらの事業体によって発行されるサステナビリティ・リンク型の債務が新たに認証の対象になりました。認証範囲は、発電事業と小売市場からの購入電力となります[1]

また、本クライテリアの発行により、次の活動が資金使途特定(UoP)型の債務が認証対象に加わりました。 

•        二酸化炭素回収貯留・二酸化回収利用貯留(CCS・CCUS) 

•        水素または水素由来燃料(アンモニア等)を使用した混焼 

 

日本への示唆: 第7次エネルギー基本計画がターニングポイントに

本クライテリアでは、電力バリューチェーンにおける発電事業に焦点を当てています。電気事業者が本クライテリアに沿って認証を得るために必要となる要件のうち、特に重要なポイントが以下三点になります。

一つ目が、事業体のトランジション計画が、科学的根拠に基づいた1.5℃目標のトランジション経路に整合することです[2]本クライテリアでは、遅くても2030年までに、事業体の平均排出原単位が1.5℃経路に整合することを求めています[3]

二つ目が、化石燃料による発電の段階的廃止に係る計画が閾値を満たすことです。本クライテリアでは、先進国の電気事業者は完全な排出削減対策が講じられていない石炭火力発電を2030年までに、完全な排出削減対策が講じられていない化石燃料ガス発電は2040年までに廃止することが必要です。

三つ目が、化石燃料と水素もしくは水素由来燃料(アンモニア等)との混焼を活用する場合には、関連する閾値を満たすことです。本クライテリアでは、水素もしくは水素由来燃料との混焼を用いることも可能ですが、先進国の事業体であれば、石炭火力発電であれば100%混焼(専焼)を2035年までに達成すること、ガス火力発電であれば100%混焼(専焼)を2040年までに達成することが必要となります[4]

現在の日本の電源構成は火力発電への依存度が高く、発電量全体の約7割を占めています。特に石炭火力発電は全体の約3割を占め、現行のエネルギー基本計画でも2030年時点で約2割を見込んでいます。

日本の電気事業者は信頼性の高いトランジション・ファイナンスを通じて、幅広い投資家から移行のための資金を調達する必要があります。その成否は、​日本政府が現在策定中の次期(第7次)エネルギー基本計画で1.5℃目標に整合的な脱炭素経路を示し、化石燃料使用発電所の段階的廃止に係る期限を明示できるかどうか等によって大きく左右されます。

参考:

 

終わりに: トランジションのゲーム・チェンジャーに

経済全体のトランジションはエネルギーシステムの脱炭素化が鍵を握っています。IEAの見通しによれば、2050年までに世界の最終エネルギー需要に占める電力の割合は50%以上(ネット・ゼロ・シナリオ)になります。この数字は、電力セクターをネット・ゼロ排出に導くための明確かつ実行可能な基準が、重要なインパクトをもたらすことを物語っています。化石燃料による発電から再生可能エネルギー(特に風力発電と太陽光発電)への電源シフトをさらに拡大、加速させ、電力セクターにおける野心的なGHG排出削減を後押す必要があります。

現在の投資のペースでは、必要とされる再生可能エネルギー容量を達成するのに90年かかります。本クライテリアは今後30年以内にこれを達成することを目指すものです。世界がエネルギーシステムの重大な構造転換に直面している今、本クライテリアが、1.5℃目標と整合的なトランジションのための資金動員に不可欠なツールとして多くのステークホルダーの方にご活用いただけることを期待します。

認証の申請方法や本クライテリアについての詳細は、ウェブサイトをご参照ください。

 

 

[1] クライメートボンド基準と認証スキームでは、クライメートボンド基準4.0以降、資金使途特定(UoP)型の金融商品のみならず、事業体、サステナビリティ・リンク型金融商品、アセットも認証対象となっています。現行のクライメートボンド基準はVER4.1となっており、VER4.2が策定中です。

[2] IEA報告書に基づいて閾値を算出。詳しくは、Background Paperを参照。

[3] 2030年までに186gCO2/kWh、2040年までに3gCO2/kWh。
(スコープ1直接排出とスコープ3事業体が購入する電力に関連する排出量が対象。詳しくは、本クライテリアを参照。)

[4] その他、CCSの回収率や、燃料として利用する水素に関する閾値等も満たすこと等が必要となります。詳しくは、本クライテリアを参照。