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「こんな画集の表紙、見たことない!」著者の個性に寄り添った装丁デザインはどのようにできるのか?編集&デザイナー特別インタビュー!

「表紙が3枚……!?」
最初に今回の画集の装丁を言葉だけで聞いたとき、完成形が全く想像出来なかった。
 
“本の表紙は1枚”という私の固定観念をきれいに壊してくれた、イラストレーター・ともわかさんの作品集『24/7 TOMOWAKA ともわか作品集』
その驚きの装丁がコチラ。

異なるイラストを載せた紙を表紙・裏表紙に3枚ずつ重ね、その上からクリアカバーを巻き1冊の本に仕上げている。さらに本を開くと、ページの間と終わりに別の本がひょっこりと挟まっている。
 
いったいどうやって思いつくんだーーー!
という感動とともに、本を眺めているとどうやって作ったんだろう…という気持ちもわいてくる。
そこで今回は、見たこともないような装丁で、人気イラストレーター・ともわかさんの画集を作り上げた編集さんと、ブックデザインを担当されたデザイナーの野条友史さんにお話を伺った。

ともわか:フリーイラストレーター。人物画をメインに、はっきりとした線と色数を絞った配色を得意とし、印象の残るイラストを描く。広告やMV、アパレルブランドとのコラボなど幅広い分野でイラストを手掛ける。
HP:https://www.7kwmt24.com
野条友史(buku):デザイナー。書籍をメインにデザインを手掛ける。
X:https://x.com/yn_buku

──まずは、基本的なところから…… 書籍をデザインしていく上で、デザイナーさんはどのように選ばれるのでしょうか?  

(編集)今回はともわかさんから直々に、装丁デザイナーとして野条さんのお名前をご指名いただきました。野条さんは以前、ともわかさんの作品もご紹介した画集『リアルクローズ イラストレーション』で、特殊で面白い装丁デザインを手がけてくださったデザイナーさんです。

『リアルクローズ イラストレーション』pp.56-59 / ともわかさんの作品ページ

『リアルクローズ イラストレーション』
2020年刊行 / 装丁デザインにこだわったファッションイラスト画集

野条さんへご依頼する前から、掲載する作品が「シリーズもの」や「漫画」など、ジャンルが多岐にわたることはあらかじめ予想できていました。
なので、『リアルクローズ〜』をデザインしてくださった野条さんなら、作品に合わせた楽しい本を作ってくださるだろうなと思い、まさに本書にはピッタリのご指名でした!


──素晴らしい信頼関係ですね!
そんな"楽しい本"である『24/7 TOMOWAKA ともわか作品集』の装丁は、どういった経緯で作られたのでしょうか。

 
(編集)今回、画集のタイトルには「24/7」というワードが入っています。
 
「24/7(Twenty four Seven)」とは、「『24時間』お店を開けていて、『7日間』休まず営業しています。」という年中無休営業の意味を持つスラングです。
これはともわかさんのお誕生日が「7/24」であるということ、1年中休みなくお仕事や趣味で素敵な作品を描き続けているともわかさんに関連するワードだと思い、ご提案させていただきました。
タイトルが決定したところで、野条さんには「24/7」にまつわる数字の7を軸にした本文構成を予定していることもお伝えし、装丁を考えていただくことになりました。

1 PORTRAIT (肖像画、人物アップの作品を収録)
2 SEASON (季節、行事を描いた作品を収録)
3 SITUATION (風景画、場面を描いた作品を収録)
4 SERIES (7点以上の連作シリーズ作品を収録)
5 FASHION (全身画、ファッションテーマを収録)
6 WORKS (複数の仕事、商業作品を収録)
7 MANGA (短編漫画作品を収録)

(デザイナー)自分の場合、書籍テーマコンセプトをきちんと理解できていないと、デザインもふわっとしてしまうので、編集者さんとお話しながら制作するようにしています。
会話の中で二つが一気に決まることもありますし、編集者さんのアイデアでデザインが決まったり、自分の一言でコンセプトが定まったりすることもあります。
編集者さんの存在はデザインや装丁にとって非常に重要です。
今回は、発注時点で書籍のテーマやコンセプトといった「本の在り方」が汲み取れる内容でしたので、そのテーマをうまく装丁に落とし込むのが課題でした。

「24/7」というタイトルが表す通り、

1 作品が7つのセクションで紹介されていること
2 ともわかさんが描いてきた膨大な作品点数と多様さを表現すること

上記2点を、今回のブックデザインのコンセプトにしています。

そこでともわかさんにご提案したカバーイメージはこちら。

最初から奇抜なデザインがうかがえます

(デザイナー)カバーは7つのセクションから作品をピックアップし、再構築してデザインしています。
イラストレーションの作品集の場合、各作品はSNSなどのデジタル上で消費されていることがほとんどです。
なので、デザインや仕様などは本としての「物質感」を出せるように、少し変わった仕様もご提案することが多いですね。

(編集)野条さんは毎回こちらの想像以上のカバーのアイデアを送ってくださるのですが、「こんな画集の表紙、見たことない!」と思いました。
ともわかさんの、どんなジャンルでも描けてしまう作風の幅広さと、バラエティに富んだ配色の魅力が伝わるデザインアイデアをいただけて感動しました。

最終の仕上がりはこちら
表紙の裏には、線画が印刷されている

(デザイナー)今回の編集さんとは、すでに何度も書籍を一緒に作ってきたこともあり、今までの既知を活かした集大成のような装丁に仕上がったと思います!


──紙の大きさや色が変わるだけでもかなり印象が変わりますね。
こうした特殊な構成ですと、印刷や製本も難しそうですが、印刷会社さんとはどういったやりとりで進めるのでしょうか。

 
(編集)今回特にカバーまわりの造本が特殊だったので、実現可能なラインを探るためにいつも以上に印刷会社さんとのやりとりが多く発生しました。
たとえばこれは印刷会社さんにお送りした、造本設計の簡易メモです。

お手製メモ

束見本を制作するにも、デザイナーさんのアイデアを正確に印刷会社さんに伝える必要があります。
なので、こうした図解で少しでも認識の相違をなくしたり、似た造本設計の類書を製本現場の方に見ていただいたり、と実現に向けて印刷会社さんと詰めていきました。


──まさに書籍の構成からデザイン、そして製本までこだわり抜いた一冊というのが伝わってきます。著者さんの個性に合わせた本づくりを大切にされているんですね。
最後に、編集さんの考えるともわかさんの絵の魅力を教えてください。

 
(編集)ともわかさんの絵は、完成されたイラストレーションでありながらも、まるで1枚のグラフィックデザイン作品のようだなと見る度に思います。
私は学生時代からともわかさんの作品を拝見していて、洗練された線やポップな配色に留まらない、デザイン性の高い画作りにずっと魅了されていました。
ともわかさんの絵は、描きたいことの本質が表現されていて、視覚的にわかりやすく、テーマがダイレクトに伝わってくるんです。
それでいて見る度にハッとさせられ、印象に残る絵でもあります。
遠くから見ただけで、あれはともわかさんの絵であると一目で気づくことができる圧倒的なオリジナリティがあり、「なんでこんなにかっこいいんだーーー!!」と思わず叫ばざるをえないような「刺さる絵」まで描かれます。
 
何よりも、今回お仕事をご一緒してあらためてともわかさんの真摯な姿勢が、描かれる絵にも現れているのだなと感じました。
見る人にどんな効果をもたらすのか、丁寧にものすごく計算して描かれている方だからこそ、年齢や性別を問わず広くの人の心を掴み、生活に彩りを与えてくれる絵を描けるのだと思いました。
ますますともわかさんのファンになりました!


大変興味深いお話をありがとうございました!
 
著者さんをはじめ、編集者・デザイナーというチームが一丸となって作る本づくりの一端をご紹介しました。今後本を手に取る際は、ぜひ装丁にも注目してみてくださいね。

▼『24/7 TOMOWAKA ともわか作品集』好評発売中!


最後まで読んでくださった装丁好きのみなさまに……特別に今回の画集で使われた用紙の情報を公開!!
 
ビニールカバー:クリアGS
判型違い表紙A:ベルグラウスT+グロスPP
判型違い表紙B:フロンティタフW+グロスニス
表紙C:b7トラネクスト+グロスニス
本文A:b7トラネクスト
判型違い本文B:コート
判型違い本文C:フロンティタフW
見返し:紀州の色上質(オレンジ)

※判型違い本文B

この用紙を採用した章には、ともわかさんの「boy meets cat」という猫と男の子の立ち絵シリーズを収録。
縦長の全身絵に合わせて、書籍の横幅サイズを切っています。

※判型違い本文C
※判型違い本文C

この用紙を採用しているのは、漫画作品を収録したA5サイズのブックインブック(一冊の本の中に異なる本が入っている特殊な製本方法)。
ともわかさんの漫画の内容に合わせた2色刷になっており、赤色のセーターのお話が収録される箇所の付近は「赤×黒」、青い靴を買う高校生のお話が収録される箇所の付近は「青×黒」で印刷しています。

ちなみに「赤×黒」には、ともわかさんが刷色に合わせて新たに描き下ろしされたヴァンパイアたちの日常漫画も収録。
とっても面白い内容なのでこちらもぜひ装丁と合わせてお楽しみください!
 

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