SOUNDTHEORY Kraftur レビュー:ひずみの特性を自在にコントロールできるプラグイン・サチュレーター

SOUNDTHEORY Kraftur レビュー:ひずみの特性を自在にコントロールできるプラグイン・サチュレーター

 SOUNDTHEORY Krafturは、ミックスにサチュレーション(ひずみ成分)を与えるプラグイン。シングル・バンドのサチュレーターとマルチバンドのサチュレーターを併装し、ダイナミクスを維持しつつラウドネスを上げられるよう、慎重に設計されているそうです。最大の特徴は、独自のオーバー・サンプリング技術とDSPアルゴリズム。エイリアシング・ノイズの発生を抑え、アナログ機器のように心地良く滑らかな質の倍音を生成し、ソースに深みを与えるといいます。この技術は、特に高音域でのひずみ効果に優れているようです。

“どのくらい入力したときにどの程度ひずむか” その特性をカーブで表し、スライダーで調整

 Krafturの操作系は直感的で、GUI左上の三角形のコントロールが目を引きます(上掲の画面)。このコントロールでは、シングル・バンドおよびマルチバンドで処理された信号とドライ信号の計3つのバランスを調整可能。ひずみの強度とキャラクターを同時に、直感的に操作することができます。その下には、次の6本のスライダーが備わっています。

 ●DRIVE シングル・バンドおよびマルチバンドのサチュレーターへの入力レベルを調整。値を上げると信号がひずんでいき、倍音が増えてラウドネスが上がります。信号をどの程度サチュレーション領域に入れるべきかは、Krafturをラウドネス・エンハンサーとして使うか、サチュレーション/ディストーション・ツールとして使うかで決まります。

 ●OFFSET 画面中央のグラフで入力レベル(横軸)と出力レベル(縦軸)の関係を示すトランスファー・カーブ。“ひずみカーブ”とも言える、このカーブの特性を調整するのがOFFSETです。カーブを見て分かる通り、0dBFSを超えると急激にクリップが発生するのではなく、−6dBFS付近から非線形な領域があります。これにより、アナログ機器のオーバードライブ、クリッピングのような心地良い倍音が得られます。OFFSETの量を上げると偶数倍音が増える印象で、聴感上、より明るい音色になるはずです。

GUI中央のグラフは、横軸が入力レベルで縦軸が出力レベル。何dBFSの音を入力したら何dBFSで出力されるかという、サチュレーターとしての応答特性がトランスファー・カーブで表現されている。上掲の画面では、どのカーブも+6dBFS以上の入力については出力が一定であり、ひずみ切っていることが分かる(赤枠)。また、−12dBFS手前までは入力レベルと出力レベルがほぼ1:1だが、−12〜−6dBFSで出力レベルが目に見えて下がって非線形になるので、ひずんでいることがうかがえる(青枠)。こうしたカーブの特性をさまざまに調整できるのがKrafturの特徴で、ほかのサチュレーターではあまり見かけないポイントだ

GUI中央のグラフは、横軸が入力レベルで縦軸が出力レベル。何dBFSの音を入力したら何dBFSで出力されるかという、サチュレーターとしての応答特性がトランスファー・カーブで表現されている。上掲の画面では、どのカーブも+6dBFS以上の入力については出力が一定であり、ひずみ切っていることが分かる(赤枠)。また、−12dBFS手前までは入力レベルと出力レベルがほぼ1:1だが、−12〜−6dBFSで出力レベルが目に見えて下がって非線形になるので、ひずんでいることがうかがえる(青枠)。こうしたカーブの特性をさまざまに調整できるのがKrafturの特徴で、ほかのサチュレーターではあまり見かけないポイントだ

 ●KNEE 数値を上げると、トランスファー・カーブがいわゆるソフト・ニーになっていきます。入力レベルが低いときから少しずつ出力が減少する(1:1を下回る)特性となり、その結果ひずみ成分が発生し、瞬間的なピーク成分はつぶれて、ラウドネスが相対的に増加します。聴感上、偶数/奇数の倍音が共に均一に増える印象で、音量はより大きく、倍音はより豊かに聴こえます。

 ●BAND SHIFTS(LOW/MID/HIGH) マルチバンド処理をする場合、各バンドのトランスファー・カーブの特性はLOW/MID/HIGHの各SHIFTスライダーで調整できます。これらの数値を徐々に大きくすることで、目的のバンドをサチュレートさせることができます。リンク・トグルをオンにすると、すべてのバンドの動きが同期し、スライダーでの変更がまとめて反映されるようになります。

 以上、OFFSETやKNEE、BAND SHIFTSを組み合わせることでトランスファー・カーブの特性を細かく調整でき、音のキャラクターをさまざまに変えられます。滑らかなカーブに設定すると、入力信号の変化に対し自然な感覚のひずみが得られ、鋭いカーブに設定すれば、入力信号に対して音色が急激に変化し、デジタルならではのひずみが得られます。

アナログ系からデジタル然としたひずみまで、高次倍音まで豊かに聴き取れる質感を出せる

 KrafturをAPPLE Logic Pro Xに立ち上げ、バスと個々のトラックの両方でテストしました。前者については、ドラム・バスやギター・バス、マスター・バスに使用。後者では、ボーカルやベースに焦点を当てました。

 まずはマスター・バスに挿し、先の6つの全パラメーターを右側に振り切りにして、どのくらい激しいひずみを得られるか音色を確認しました。なかなか激しくひずみますが、OFFSETを100%にすると、いわゆるデジタル・クリッピングのような荒々しい、平坦なエネルギーの倍音ではなく、高次倍音まで豊かに聴き取れる質感が出せます。また、6つすべてを操作すると入力信号に対する反応が猫の目のように変化し、クラシックでアナログライクなサチュレーションからモダンなデジタルひずみまで幅広くカバーします。

 低域に関しては、ROLAND TR-808のキックやローパス・フィルターをかけたシンセ・ベースに、倍音をいくらでも付加することが可能です。中域では、例えば歌に豊かでパワフルなひずみを付け加えることで、モダンなざらつきのあるボーカル・サウンドが得られます。そして高域では、原音へわずかにブレンドすれば、ひずみというよりはむしろ輝きや輪郭を与えることが可能。その結果、クリアでシャープな音色が手に入ります。こうした多様性により、さまざまな音楽スタイルやトラックに対応できます。

 操作面については、微妙な音の変化も容易に追求でき、プロフェッショナルな音楽制作においても十分な対応力を持っています。CPU負荷は比較的軽く、複数のKrafturを同時に立ち上げて使用しても、パフォーマンスに大きな影響を与えませんでした。

 総評としては、直感的な操作性と多様な音色を提供する優れたひずみプラグインです。独自の技術により高品質なひずみ効果を実現し、プロ・ユースにおいても信頼性の高いツールです。コスト・パフォーマンスにも優れる印象なので、幅広いユーザーにとって価値のある投資となるでしょう。

 

Mine-Chang
【Profile】作編曲家/音楽プロデューサーとして、アーティストへの楽曲提供やCM音楽制作などで活躍するとともに、prime sound studio form所属のレコーディング・エンジニアとしても活動している。

 

 

 

SOUNDTHEORY Kraftur

14,575円(為替レートにより変動)

SOUNDTHEORY Kraftur

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13〜13、INTEL製の2.0GHz以上のCPU(2008年以降製造/SSE3対応)またはAPPLE M1、AAX/AU/VST/VST3に対応するホスト・アプリケーション
▪Windows:Windows 10(64ビット)/11、AAX/VST/VST3に対応するホスト・アプリケーション、INTEL製またはAMD製のCPU(2008年以降製造/SSE3対応)
▪共通項目:4GB以上のRAM(8GB以上を推奨)、OpenGL 3.2以降に対応したグラフィック

製品情報

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