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利用者:Leukemianwalt/サザーランドによるウィンストン・チャーチルの肖像画

1954年、イギリスの芸術家グラハム・サザーランドは、ウィンストン・チャーチル首相の前身の肖像画を作製する依頼を受けた。サザーランドの報酬は1000ギニーであった[注釈 1]。報酬の原資は、庶民院および貴族院の議員らからの寄附によって賄われた[2]。 肖像画は、1954年11月30日、チャーチルの80歳の誕生日に、両院からの贈り物として、ウェストミンスター・ホールにおいて贈呈された[3]

チャーチルは肖像画の描写を不愉快に受け取り、これを極端に嫌った。お披露目の後、肖像画はチャートウェルのチャーチルの家に移されたが、飾られることはなかった。1977年にチャーチル夫人が他界した後、チャーチルの不満を抑えるため、夫人が移設の数ヶ月後に肖像画を破壊させていたことが明らかになった。

背景

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肖像画の作製が依頼された時には、チャーチルは2期目の首相の任期の終わりを迎えようとする年長の政治家となっていた。 サザーランドは、1949年のサマーセット・モームの肖像画などを通して、モダニスト画家としての評判を得ていた。サザーランドの技法は、被写体を誇張せずありのままに描写するものであった。モデルの中には、サザーランドの誇張のない描写を、被写体に対する残酷さや侮辱であると受け取る者もいた[2]

サザーランドとチャーチルが肖像画に求めるものも違っていた。 チャーチルはガーター騎士団のローブを着た姿で描かれることを望んでいたが、依頼では通常の議会での服装(黒のモーニング、チョッキ、縞模様のズボンと斑点の蝶ネクタイ)で描くことが指定されていた。

肖像画の作製

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サザーランドは、1954年8月から、チャートウェルにおいて、チャーチルの手と顔に注目した木炭画のスケッチを複数回作製した。 スケッチが完成した後には油彩の習作が作られた。サザーランドは、エルスベス・ジュダが撮影したチャーチルの写真を元にした習作も作製した。サザーランドはこのような習作をアトリエに持ち帰り、大型の正方形のカンバスに最終作品を作製した。画面を正方形とすることで、チャーチルの「私は岩だ」という発言に体現される、その堅実さと忍耐力を表現することが企図されていた。

チャーチルは、ワシントンD.C.のリンカーン記念堂にあるリンカーン像を思わせるような、椅子の肘掛けを掴んだ姿勢で描かれた。チャーチルは、不機嫌な表情で、少し前掲し、冬のような灰色、茶色や黒い色調で囲まれている。 サザーランドは、作製中の作品についてチャーチルと話し合うことを好まず、滅多に見せることをしなかった。チャーチル夫人は、肖像画は本人によく似ていると考え、「非常に驚くほど似ている」と評した。しかし、同時に、チャーチルがあまりにも怒っているように見えるとも評した(ただ、チャーチルは怒った表情で有名であった。)。チャーチルの息子ランドルフは、肖像画のチャーチルは「魅力を失して見える」と考えた。

当事者の反応

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チャーチル夫人は、1954年11月20日に肖像画を見て、写真をチャーチルに送った。 初めて肖像画を見たチャーチルは非常に怒った。チャーチルは、モラン卿に対して、「汚らしく悪意がある」と評し[4]、「ストランドの排水溝から引き揚げられた酔っ払いのようだ」と不平を述べた

[5]。 お披露目まで10日を残し、チャーチルはサザーランドに書簡を送り、「君の作品は、技術的には巧妙だが、適切ではない」と述べ[6]、式典は肖像画なしで執り行う可能性があると宣言した。サザーランドはこれに答えてたが、肖像画は彼が見たチャーチルの真の姿を忠実かつリアルに表現したものであるとの主張を変えなかった。保守党議員チャールズ・ドハティがチャーチルを説得し、出資者である両院議員の心情を害さないよう、式典は予定通り行うこととなった[7]

[8]ウェストミンスター・ホールでのお披露目式はBBCによって録画された。チャーチルは演説で、肖像画の贈呈は前例のない栄誉だとしつつ、肖像画を「力と率直さを兼ね備えた現代美術の傑作」と(しばしば皮肉といわれる形で)評した。他の評価は割れている。批評家の中には描写の正確性からくる力強さを賞賛する者もあったが、他の者は侮辱であるとして唾棄した。反チャーチル派の労働党議員アナイリン・ベヴァンは「素晴らしい作品だ」と評した。チャーチルの保守党の同僚で友人であったヘイルシャム卿は「不快だ」と述べた[9]

肖像画は、チャーチルの死後、国会議事堂に飾られる予定だった。しかし、チャーチルがこれをチャートウェルに持ち帰ってしまい展示することを拒否したため、チャーチルへの個人的な贈り物の扱いに変更された。公開のために肖像画を貸し出して欲しいとの要請は拒否された。

1978年になって、チャーチル夫人が、肖像画をチャートウェルへの到着後1年以内に破棄していたことが報じられた。チャーチルへのこれ以上の負担にならないよう、肖像画は細かく切り刻まれ消却されていた[10]。チャーチル夫人は、以前にも、自分が気に入らないチャーチルの肖像画(ウォルター・シッカートやポール・メイズによるスケッチを含む。)を破棄したことがあった[11]。 夫人はサザーランド作の肖像画をチャートウェルの蔵に隠し、個人秘書のグレース・ハンブリンとその兄弟に、夜中に肖像画を持ち出し人里離れた場所で消却するよう命じた。多くの批評家は美術品の破壊に驚き、サザーランドは破壊行為を非難した。他の人々は、チャーチル夫妻には自分達の財産を処分する権利があり,問題ないと考えた[12]

サザーランドが準備のために描いたスケッチの一部は、ロンドンのナショナル・ポートレート・ギャラリーに所蔵されている。肖像画の複製が同じくロンドンのカールトン・クラブに保存されているといわれているが、展示はされていない[13]。ビーバーブローク美術館にもサザーランドの数々の習作が所蔵されている[14]

メディアへの登場

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2016年のNetflixのドラマシリーズ「ザ・クラウン」第1シーズンエピソード9「暗殺者たち」において、肖像画の作製・披露から破壊に至るプロセスがドラマ化された。サザーランドはスティーヴン・ディレインによって演じられた[15]。史料では実際には肖像画を実際に破壊したのはチャーチルの秘書官らであったことが示唆されているが、ドラマではチャーチル夫人チャートウェル・ハウスの庭で肖像画が焼けるのを見ているような演出がされた。本エピソードでの演技により、チャーチルを演じたジョン・リスゴーは、プライムタイム・エミー賞助演男優賞ドラマ・シリーズ部門を受賞した。

脚注

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参考文献

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外部リンク

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  1. ^ [https://www.theyworkforyou.com/debates/?id=1954-12-14a.1570.4 Questions in the House of Commons at theyworkforyou.com: retrieved 22 July 2020
  2. ^ a b An Introduction to Graham Sutherland's Portrait of Sir Winston Churchill”. galleryoflostart.com. 2012年7月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。 Template:Cite webの呼び出しエラー:引数 accessdate は必須です。 引用エラー: 無効な <ref> タグ; name "LostArt"が異なる内容で複数回定義されています
  3. ^ “1954: Winston Churchill turns 80”. On This Day, 30 November 1954 (BBC). http://news.bbc.co.uk/onthisday/hi/dates/stories/november/30/newsid_3280000/3280401.stm 
  4. ^ Pearson, John (2012). The private lives of Winston Churchill. London: Bloomsbury Reader. ISBN 9781448208074. https://books.google.com/books?id=LOyIFMhshAQC&pg=PT338 2018年6月27日閲覧。 
  5. ^ Lacey, Robert (17 October 2017). The Crown: The Official Companion, Volume 1 Elizabeth II, Winston Churchill, and the Making of a Young Queen (1947-1955). 1. Crown Archetype. ISBN 9781524762285 
  6. ^ Meyer, Michal (2018). “Sketch of a Scientist”. Distillations (Science History Institute) 4 (1): 10–11. https://www.sciencehistory.org/distillations/magazine/sketch-of-a-scientist 2018年6月27日閲覧。. 
  7. ^ Black, Jonathan (23 March 2017). Winston Churchill in British Art, 1900 to the Present Day: The Titan With. Bloomsbury Publishing. pp. 154–170. ISBN 9781472592415. https://books.google.com/books?id=GJBHDgAAQBAJ&pg=PA154 2018年6月27日閲覧。 
  8. ^ Sorrels, Roy W. (1984). “10 people who hated portraits of themselves”. In Wallechinsky, David; Wallace, Irving; Wallace, Amy. The People's Almanac Book of Lists. p. 190. ISBN 0-552-12371-4 
  9. ^ Sorrels, Roy W. (1984). “10 people who hated portraits of themselves”. In Wallechinsky, David; Wallace, Irving; Wallace, Amy. The People's Almanac Book of Lists. p. 190. ISBN 0-552-12371-4 
  10. ^ “Secret of Winston Churchill's unpopular Sutherland portrait revealed”. The Telegraph (London). (2015年7月10日). https://www.telegraph.co.uk/news/winston-churchill/11730850/Secret-of-Winston-Churchills-unpopular-Sutherland-portrait-revealed.html 
  11. ^ Wrigley, Chris (2002). Winston Churchill: A Biographical Companion. Oxford: ABC-CLIO. p. 318. ISBN 0874369908. https://books.google.com/books?id=HBUslUOGOgkC&pg=PA318 
  12. ^ Sutherland portrait of Churchill displayed for first time in 20 years”. The Independent (2014年1月28日). Template:Cite webの呼び出しエラー:引数 accessdate は必須です。
  13. ^ Sutherland's portrait of Churchill”. Lord Lexden (2017年5月13日). Template:Cite webの呼び出しエラー:引数 accessdate は必須です。
  14. ^ “Portrait of a Prime Minister: The Crown's view of Churchill”. (2016年12月12日). https://beta.theglobeandmail.com/arts/television/remains-of-graham-sutherlands-lost-churchill-portrait-survive-in-frederictongallery/article33300344/ 
  15. ^ The Crown: What really happened to Graham Sutherland's controversial portrait of Winston Churchill?”. Radio Times. 2019年3月17日閲覧。


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